驚異のイラストアーティスト田村大、初個展&初画集で飛躍の年となった2021年を振り返る

若手アーティストにとって、「初個展の開催」「ファースト作品集の発表」は、その後キャリアを伸ばしていくために大きなステップとなる目標です。そんな節目となるイベントを、2021年11月に一気にやってしまった若手アーティスト&イラストレーターがいます。

それが、今回ご紹介する田村大さん。

田村大さんってどんなアーティストなの?

田村さんは、アーティストとしてはどちらかといえば遅咲きのタイプ。なぜなら、社会人になるまではアートとは無縁の世界にいたからです。大学時代まで、プロ選手を目指してバスケットボールに打ち込んでいたのです。その後、夢やぶれてデザイナーとして再起。就職先のスポーツイラストの仕事を通して「絵描き」の面白さに目覚めました。

そこからアメリカンスタイルの似顔絵を描く、カリカチュアの世界大会で優勝するなど、徹底的に「絵描き」としてのワザを磨いてから、2018年、満を持して独立。修行時代に培った描写力と、緻密なPR戦略がかみ合い、瞬く間に人気アーティストの一角へと上り詰めました。

田村さんの代名詞として知られるのは、NBAのトッププレイヤーをはじめ、各分野で活躍するアスリートなどを描いたスポーツイラストです。ほぼ毎日のように新作がアップされる彼のInstagramは、10万人を超えるフォロワーで賑わっています。

https://www.instagram.com/p/CYEnxq2vKZq/

特に2020年~2021年にかけての活躍は目覚ましいものがありました。

オリンピックやメジャーなスポーツ大会が開催されるたびにイラストが話題になり、テレビやラジオ、CMなどにも相次いで出演。一気に知名度を高めていきました。気がつけばデビューからわずか3年半。イラストレーター&アーティストとして堂々たる風格を身につけつつあります。

さて、そんな田村さんにとって、さらなる飛躍をつかむ起爆剤として期待されたのが、はじめての画集『DT』です。いきなりのセルフタイトル。そして帯には「この作品を見る人のこころに炎を焚きつけたい」。まさに戦闘態勢。最初から勝負に出ています。

帯に推薦文を寄稿しているのは、田村さんが新人の頃からお世話になっているという、タレントの武井壮さん。「競技者たちの『奇跡の瞬間』をリアルを超えて描き出す最強のアーティスト」と、最大限の賛辞が寄せられていますね。

それでは、早速見てみましょう。

コピックと色鉛筆が描き出す、息を飲むような決定的瞬間

まず、パラパラと見てわかるのが、ビビッドで美しい色彩。水彩画のような透明感もありますが、水彩絵の具よりも断然に色彩の強さが感じられます。ひょっとしたらコンピュータ上で処理しているのかな……と思ったりもしますが、田村さんはPhotoshopもIllustratorも使いません。全部肉筆です。

実はこれ、コピックと呼ばれる水性のマーカーを使って描かれているのです。

コピックは、1987年に開発され、イラストやマンガ、ポスター制作など、デザインや絵描きのプロに愛用されてきたアルコール染料を原料としたマーカー。全部で358色あり、田村さんはこのコピックをカリカチュア時代から愛用してきました。

オリジナリティの源泉はアメコミ+マンガの大胆な融合

さて田村さんの画風は、一般的にどう見たらいいのでしょうか。

日本人の描くイラストといえば、人物をデフォルメして、可愛さや可憐さを強調したり、といったスタイルが主流です。ですが、田村さんの描く人物や動物の表情は、リアルで精悍。筋肉が唸っています。各界の最前線で戦うアスリートたちの、競技者としての野性味や本能が、スピード感あふれる筆致で描かれているのです。どちらかというと、アメリカンコミックに近いタッチに近いようなイメージもあります。

しかし一方で、海外からのフォロワーを数多く抱える彼のInstagramでは、田村さんの作風は「マンガ的なタッチが素晴らしい」と評価されているのだとか。

これは一体どういうことなのでしょう。田村さんに聞いてみました。

「幼少期、僕は少年漫画を見て育っていて、マンガがルーツにあるんです。それから、カリカチュアの仕事を通してアメリカンスタイルの似顔絵をやってきたので、この2つが混ざりあったところが、僕のオリジナルなんです。」

なるほど、外国人から見ると、田村さんのイラストには日本のマンガに近いテイストを感じられるのでしょう。だけど、日本人から見ると、どちらかといえばマンガというよりアメコミ的な劇画調の香りが感じられるわけですよね。

アメコミとマンガという2つのジャンルがクロスオーバーした領域で、独自のスタイルを追求する田村さんの作風、ぜひじっくりと味わってみてください。

田村大考案!臨場感を最大限に引き出すオリジナル効果線!

僕はアスリートをスーパーヒーローとして描いています。だからスーパーヒーローが必殺技を出す瞬間、その人の一番エネルギーが出る瞬間を描きたい。」と語る田村さんは、アスリートが躍動するシーンを描く達人です。

しかし、単に写真のように正確に、写実的な絵を描けばいいというものでもありません。これだけ映像や写真技術が発達した今、絵描きに求められているのは、写真や映像ではできないような、イラストならではの独自の迫真表現であるわけです。

田村さんの絵を何枚もじーっと見てください。すると、ある2つの特徴に気づくかと思います。

それが、描かれた人物から風圧のように放射されている効果線です。アスリートの体が高速で躍動する様子が見事に表現されていますよね。そして、人物の周囲には、効果線の方向に沿って細かい斑点も描かれていますね。場面によっては選手から飛び散る汗の粒に見えたり、目に見えないオーラを可視化しているようにも感じられたりします。

実はこれらの2つの効果線は、田村さんオリジナルのテクニックなのです。

「こういう効果線って、絵を引き立たせるために普通は絵の方に向かって走っていますよね。それを、絵から出してみたら面白いんじゃないかと思って。それで、スポーツの絵をより引き立たせるために、絵から線を出してみたんです。今では、これが入っていると僕の絵だと認知してくれる人が結構増えてきましたね。」

真に迫った表現力を生み出すため、田村さんが開発した独自の作画テクニック。これ以外にも、稲妻や水しぶきなど、緊張感を高めるための様々な技術が詰まっています。こうした田村さんの創意工夫にも思いを馳せながら画集をチェックしてみてください。鑑賞が、さらに楽しくなるはずです。

ちなみに本書ですが、企画が立ち上がった当初は、初刷では他のアーティストと同程度である約1000部を予定していたそうですが、同社の編集長が田村さんから届いた作品を見て姿勢を一変。「これは、もっと売らないとダメな作品集だ」となって、数倍規模の売上を目指して、マーケティングを強化することになったのだそうです。

そんな画集発売に続き、田村さんの快進撃をさらに象徴付けたのが、スニーカーの専門店Atmos 千駄ヶ谷店で開催された3日間の個展「ILLUSTART」でした。

アーティスト田村大の誕生。その輝かしいキャリアは千駄ヶ谷から始まった!

実はこの個展、単に画集と連動した初個展、という位置づけにとどまらず、田村さんにとっては重要な意味がありました。

その意気込みは、ILLUSTRATIONとARTを組み合わせた展覧会名「ILLUSTART」にあらわれています。この「ILLUSTART」という単語の中には「START」という単語も含まれていますよね。そう、田村さんは、今回の初個展をイラストレーターとしてだけでなく、アーティストとしての本格デビューの場としても位置づけていたのです。まさに絶妙なネーミングですよね。

僕も、最終日に滑り込みで個展を鑑賞。人が退いた頃にお邪魔できれば……と思って。敢えて展示が終了する夕方17時ごろにお邪魔したのですが、足を運んでみれば、店内はまだまだ大勢のお客さんで大盛況。とても初めて個展を開催する新人アーティストの個展会場とは思えません。

それでは、早速その個展会場の様子を振り返ってみましょう。

新境地を開拓した、「アーティスト」田村大としての作品群

まず、店内に入って最初に目に飛び込んできたのは、トラ、ヒョウ、シマウマ、牛をそれぞれ異なる色彩で描いた8枚の動物画作品でした。Atmosのアニマルパックというスニーカーにちなんで描かれたシリーズ作品です。アーティストとしての田村大を前面に押し出した作品群ですね。

本作で使われたのはコピックと色鉛筆。動物の体毛1本1本まで本物さながらの質感で繊細に描かれている一方、輪郭線はどこかスタイリッシュな幾何学模様へとデフォルメされているのが特徴的です。

毛並みは非常にリアルだが、輪郭線はシャープな幾何学形へと単純化されている。写真との差別化を図るための、田村さんの試行錯誤の跡が感じられました。

「毛並みなどはリアルに描き込んでいったので、この上輪郭まで忠実にやってしまうと、今度は写真との違いがあまりなくなってしまうのが嫌だなと思って。それで、動物画についてはソリッドな直線を多用して、デザイン的な造形を入れてみたんです。リアルなんだけど、ひと目見て、どこか人目に止まるようなひっかかりもある、そんな面白さを追求する中で生まれたかたちなんです。」

アーティストとして独立する前は、社会人としてスポーツ用具のデザイナーの仕事をしてきた田村さんならではの着想ですね。

続いては、メインビジュアルにも選ばれているこちらの「炎」の作品。もう一つの、ろうそくの明かりを描いた作品とあわせて、本展では2つの炎の作品が並んでいました。

田村さんはこれらの作品に対して、「作品を見た人の胸を焚き付けたい。作品のエネルギーを直にお客さんに届けたい」という思いを込めて、今回、これらの炎の作品を展覧会の主役としたそうです。

というのも、これまで私たちが田村さんの作品を見る機会は、その大半がInstagramをはじめとするネット上に限られていたからです。

「スマホだけじゃなくて、原画で見ていただく機会って、なかなかなかったんですよね。だったら、僕の中の絵に対する”情熱”を体感していただけるような作品で、そのエネルギーをそのまま届けてみたいと思ったんです。」と田村さん。

なるほど、それなら炎というテーマは、ストレートで一番わかりやすいかもしれません。確かに、暗闇の中で燃えたぎる炎を見ていると、心のなかに静かな情熱が湧き上がってくるようでした。

今後の目標や課題とは?

2021年12月27日に代官山 蔦屋書店で、作品集『DT』発売を記念して開催されたトークイベントでの一枚。

こうして、2021年末に初出版&初個展という2つのビッグイベントを大成功させた田村大さん。最後に、年末年始で多忙な中、田村さんに個展開催で見えてきた目標や課題、そして2022年以降の抱負について少しお聞きしてみました。

――作品集『DT』の発表と個展「ILLUSTART」の開催、本当にお疲れさまでした。ここまでの手応えはいかがでしょうか?

田村:おかげさまで、個展は3日間で600名以上の方に来ていただいて、絵も7点売れました。作品集も多めに用意しよう…と思って200部用意したんですが、初日に全部なくなっちゃいました。画集や作品集って、普通は来場者の1割が買ってくださったら上出来だって言われているみたいなんですが、ほぼ来てくださった方全員が買ってくださいました。本当にありがたいなって思います。

――ええっ!?本当に凄いですよね。僕も3日目の夕方にお伺いしましたが、来場者が途切れることがなかったですもんね。本当に熱気にあふれた凄い個展でした。

田村:ありがとうございます。Atmosさんでもお祝いのお花の数や、絵やグッズ類の販売金額が社内で話題になったそうです。

――12月27日の代官山 蔦屋書店でのトークイベントでも仰っていましたが、全国主要都市にあるAtmosさんの各店舗で、作品展示のジャパン巡回ツアーが決定したそうですね。

田村:そうなんです。2022年1月から、非売品として先日の個展でもメインビジュアルとして展示していた炎の作品や、非売品のスニーカーを描いた作品などを中心に展示を行う予定なんです。僕もお店まで行くので、東京での個展にご来場頂けなかった方にもお会いして、直接お話できれば嬉しいですね。

――先日は全て肉筆の作品が中心でしたが、今後は多くの人に作品を届けるために、版画作品なども検討されることもありますか?

苔むした大木の幹にフォーカスして、コピックと色鉛筆で丹念に描きこんだ超絶技巧作品。離れて見ても、近づいて見ても楽しめる力作でした。

田村:今回の個展でも、木の幹を描いた作品なども、売約済みとなったあとにお越し頂いた方から「もっと速く来場すればよかった…」とお声がけ頂いたこともありました。もちろん、1点ものだからこそ価値があるのかもしれないですけど、より多くの人に僕の作品を買って楽しんでいただく、という点で、版画やポスターなどの形でお届けできれば面白いなとは思っていました。Atmosさんのジャパンツアーに関してはシルクスクリーンでの作品展示・販売も検討中です。実現できれば、より手に取りやすい価格でお買い求めいただけると思うので、楽しみです。

――スニーカーの絵がものすごく質感がリアルでした。皮の感じとか、合成繊維がすごくよく描かれていらっしゃって。このあたりはコピックで培った似顔絵の技術を応用して描かれているのですか?

スニーカーの革やゴムの素材の持つ質感が、見事に表現されていた。コピックと色鉛筆を組み合わせた表現方法について、かなり研究されたとのこと。

田村:いや、人の顔とはまた違いますね。独立してから、これまで静物画はほとんど描いてこなかったので、少し試行錯誤を重ねました。やっぱりシズル感じゃないですけど、そこにあたかも存在しているような実在感を大事にして描くようにしています。お店の製品を描く時は、僕自身の色を出すよりも、その製品をリスペクトしている人の気持ちにストレートに届くように、よりリアルな再現性を重視しています。

――最後に、2022年以降の目標や夢などを教えてください。

田村:アート領域への活動を一歩踏み出す中で、海外で展示会や個展を開けたらいいなと思いますね。AtmosさんやTSUTAYAさんなども海外にお店がありますから、可能ならこれまでの提携先とコラボする中で実現できれば一番いいなと思っています。

――いきなり海外進出ですね!ちなみに、海外だと、どのあたりを想定されているんですか?

田村:アメリカやAtmosさんの海外支店があるアメリカや香港、台湾、TSUTAYAさんなら上海などですね。せっかくやるなら、2回目は海外でやってみたら面白いなって思ったんです。それもいいチャレンジになるかなと。

――作品集『DT』を拝見すると、田村さんご自身のルーツであるバスケットボールを皮切りに、国内外で活躍するワールドクラスのスポーツ選手を幅広く描かれてきましたが、これからはどんなジャンルを描いていきたいとお考えですか?

田村:球技以外のスポーツもやりたいですね。冬季オリンピックの仕事なども本当はやりたい気持ちはあります。まだあきらめてはいないです!

――アート分野では、何か特別に気になっているモチーフや画題などありますか?

田村:肖像画ですね。今回の個展では、人物を描いた作品を一つも出さなかったので、人物を描いた作品で個展もしてみるのも面白いと思っています。それはちょっと(アート方面でのプロデュースをしてくれている松本松栄堂の)松本さんと話しています。

――最後に、田村さんが今取り組まれている、課題への取り組みを教えて頂けますか?

田村:認知度の向上です。おかげ様でInstagramではフォロワー10万人を達成したんですが、日本の国内での認知度がまだまだ全然足りなくて、もっと自分のことを知ってもらえるように意識して、2022年は活動を進めていきたいと思います。

取材を終えて

幼少時から、とにかく絵を描くことが大好きだったという田村さん。田村さんに絵をみてもらおうと、お絵かき帳を個展会場に持ってきた女の子との一枚。優しくアドバイスを送る、田村さんの優しい表情が印象的です。心温まるシーンでした。

田村さんに取材をさせていただくのは、本当に楽しいです。なぜなら、常に未来志向で前向きなので、ポジティブなエネルギーにあふれているからです。

今回、約2年ぶりにお話をうかがって、田村さんが、絵の実力だけでなく、人間としても一回り大きく成長されているのだな、ということがヒシヒシと感じられました。

常にチャレンジ精神を忘れず、立てた目標に対して真摯に、かつ戦略的に取り組んでいく田村さん。2021年12月27日に開催されたトークイベントでは、「日本を代表するアーティストとして認められたい」と次の目標を力強く語ってくれました。

今後の活躍から、目が離せませんね。楽活では、これからも田村さんの活動を逐一フォローしていく予定です!

関連情報

田村大写真集「DT」
出版:主婦の友社
価格:2,420円(税込)
仕様:B5変形 天地230mm × 左右175mm・152ページ
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/407448479X

田村大・プロフィール

似顔絵制作会社に7年間勤務し、在籍期間中に3万人の似顔絵を制作する。2016年に似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会において総合優勝した後に独立。

独立後は自身がプレイヤーとしてインターハイベスト8の実績を持つバスケットボールを中心としたイラスト制作を中心に活動。ペン・カラーマーカーを用いてダイナミックに手を動かして描く、躍動感あふれるスタイルを最も得意とし、 日本を代表する選手である八村 塁や渡邊 雄太を始め、ステフィン・カリーやシャキール・オニールなどの著名なNBA選手からも高い評価を受ける。
その他、メンフィス渡航時にはNBAからの密着取材を受け、NIKEのジョーダンブランドとのオフィシャルコラボレーションを行うなど、バスケットボール分野での実績を多数保持している。

また、バスケットボールに留まらず、野球、サッカー、テニスなどのイラスト制作にも着手し、ロジャー・フェデラー選手のツアー100勝達成時には公式サイトに記念イラストが掲載された他、読売巨人軍、福岡ソフトバンクホークスとオフィシャルコラボレーション商品をリリースするなど、スポーツ全般へと活動の幅を広げている。

Instagramアカウントのフォロワーは11万人を超え、NHKやTBSでもイラストを取り上げられるなどメディアからの注目度も高まっている。2019年からは、クジラやオオカミ、ワシなどの野生動物の絶滅危惧種をA1サイズの大きさで繊細かつ力強いタッチで描き、 イラストレーターと並行して新たにアーティストとしての活動にも挑戦。アートの分野では、京都で100年の歴史を持つ画廊、松本松栄堂の展示会へ出展するなど、新たな挑戦を続けながら着実に実績を積んでいる。

Instagram:@dai.tamura
DT合同会社:https://dt-ltd.tokyo/

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