声優・伊東健人が教えてくれたフェルナンド・ボテロ作品の「意外」な3つの魅力とは?

歌も歌えてイケメンで、美声の持ち主で、しかも知的。まさに非の打ちどころがない声優が、伊東健人さんです。今、最も勢いのある若手声優のひとりでもあります。

映画や音声ガイドなど、様々な「声の仕事」で活躍の幅を広げていらっしゃる伊東さんですが、今回、Bunkamura ザ・ミュージアムで2022年7月3日(日)まで開催されている展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」では、展覧会の音声ガイドでのナレーションに初挑戦されました。

実は僕がボテロ展で公式ホームページでのコラムを担当させていただいているご縁から、今回、折角なので伊東さんにインタビュー取材をしてみませんか、とお声がけいただきました。

音声ガイドの中の人とお話できるような機会って、なかなかありませんよね。二つ返事で「やりますやります!」と承諾し、インタビューに行ってまいりました!

プロの評論家顔負けの、鋭い視点に感服!

実は、インタビューに臨む前は、どちらかというと、アートファン向け…というよりも、伊東健人さんのファン向けに、記事をまとめようと構想していたんです。でも、質問を進めていくにつれ、伊東さんが、フェルナンド・ボテロやその作品について、専門家顔負けの、かなり深いレベルまでボテロ作品を読み解いていらっしゃることにびっくり。

実際、伊東さんは、音声ガイドでのナレーションのための予習などを通して、展覧会がスタートする前にフェルナンド・ボテロについていち早く学びを深めました。そして展覧会がスタートすると、仕事を通して得た知識を活かしながら、じっくりと2度鑑賞。1度はお仕事で、1度はプライベートで足を運ばれたそうです。

また、今までファンの方にはあまり明かしてはいなかったみたいなのですが、伊東さんはプライベートでもたびたび美術展に通っているそう。過去にはミュシャやダリ、モネといった西洋美術の巨匠を特集した展覧会に足を運んだこともあったそうです。

よって、今回はせっかくなので、インタビューを元に、伊東健人さんならではのボテロ作品への見方についてまとめてみようと思います。「声」を通して様々な表現活動に精通した伊東さんならではの、ボテロ展の楽しみ方を伺ってきました!

1、絵の「ボリューム感」は近づいたり遠ざかったりして楽しむ

まず、伊東さんが真っ先に語ってくれたのが、絵の大きさ。そして絵の中に描かれた人物たちのボリューム感です。「思っていたよりも大きいと思いました。展覧会のタイトルに”ふくよかな魔法”と入っていますが、絵の中のボリュームや絵そのものが大きい。圧倒されましたね。」

ここまでは、まぁ誰でも思いつく感想ですよね。でも、伊東さんが凄いのは、その大きな絵をどのように見たら楽しめるか、というところに踏み込んで語ってくれたことでした。

「ちょっと遠目でみてみると、近くで見たときとイメージがかなり変わりますよね。近づいて見ると、今度は、より詳細な情報が目に飛び込んでくる。ちょっとした服のシワとか、肌の質感とか。あるいは、布、木、髪の質感みたいなところも見どころだと思います。全体が大きいからこそ、近くで見た時に、より違いがわかるんです。筆跡などもわかりやすく見えるので、ああ、面白いなと。画像で見るよりも、実物を目にしてみて初めてわかりましたね。」

(左)フェルナンド・ボテロ《黄色の花》《青の花》《赤の花》(3点組)2006年 油彩/カンヴァス 各199 x 161cm、(右上、右下)《青の花》の部分拡大/拡大していくと、どんどん見える景色が変わっていくのも、ボテロ作品を鑑賞する際の醍醐味。

確かに、ボテロの絵は、あまりに巨大なのでその大きさに圧倒されてしまいがちですが、近くまで寄ってみると、非常に丁寧に細部まで仕上げられていることに気づくんですよね。近づいて見ても楽しいし、離れて見ても面白い。それがボテロ作品の特徴なのですね。

2、ボテロが描く人物が「無表情」な理由

伊東さんが繰り返し強調していたのが、ボテロ作品の絵の中で描かれる人間たちの「表情」についてでした。よく絵を見てみると、どの人物も一様に表情が乏しく、視線もまっすぐではありません。なので、絵を見ているわたしたちと、決して目が合わないんです。

伊東さんは、「無表情な登場人物たちの中に秘められた主張を探したり、無表情である理由を考えるのが凄く楽しいんです。しかも、それは一つじゃなくていろいろある。考えるための”余白”がちゃんと残されているんです。僕たちは知らず知らずの間に、ボテロさんの術中にはまっているのかもしれませんね。」と語ってくれました。

左:フェルナンド・ボテロ《バーレッスン中のバレリーナ》2001年 油彩/カンヴァス 164 x 116 cm
右:フェルナンド・ボテロ《モナ・リザの横顔》2020年 油彩/カンヴァス 136 x 100 cm
画面内に描かれた人物と、鑑賞者の視線が交わることは決してありません。

音声ガイドの中では、ボテロさんになりきって「人間の顔をリンゴを描くように表現し、鑑賞者と目が合わないようにしたい、感情を表したくない。それは絵を見る人が、そこに集中できるようにするためだ。」とナレーションされていましたが、実際に絵を見て回ったとき、ガイドの内容がスーッと理解できたそうです。

ボテロ作品には、全ての作品において、絵の中に鑑賞者が考えを巡らせたり、想像力を働かせるための”魔法”が施されています。その一つが「決して視線を合わせてくれない無表情な人物たち」であるわけなんですね。

3、ボテロ独特の「液体の表現」に注目!

「展示作品の中で、どれが一番好きですか?」という質問に対して、迷わず《コロンビアの聖母》と答えてくれた伊東さん。聖母が祖国コロンビアを想って流す「涙」の象徴的な表現や、涙が「液体」として流れる際の独特の表現様式が心に残った、と答えてくれました。

「《コロンビアの聖母》では、聖母が流している涙の表現が、非常に心に残りましたね。実際に人間が泣く時って、こんな涙の流れ方はしないじゃないですか?いくつもの水滴に分かれて流れたりとか、浮かんでいるような感じだったりとか。ある種、象徴的な液体の表現方法が凄い好きだなって思いました。」

フェルナンド・ボテロ《コロンビアの聖母》1992年 油彩/カンヴァス 230 x 192 cm
聖母が流す「涙」の表現に注目!

確かに、本展で展示されているボテロの他作品でも、涙や血の描き方は非常に特徴的。「絵画作品で大切なのは、テーマよりも表現様式だ」と言い切るだけあって、ボテロの絵には、「ふくよかさ」以外にも、もののかたちに対する様々なこだわりが織り込まれています。

伊東さんはこうしたボテロ作品の特徴を、しっかり見抜かれていたのですね。するどい鑑賞眼、感服いたしました。

音声ガイドが鑑賞の大きな助けになるボテロ展

本展で音声ガイドのナレーターを務めたことで、確実にボテロ作品への理解が深まった、という伊東さん。ガイドでは、90歳の巨匠フェルナンド・ボテロになり切って演じながら話したパートもあるといいます。音声ガイドの使い方について、こんな風に語ってくださいました。

「たとえば、なんでボテロさんの作品はみんな人物が無表情なんだろう、と思いますよね。そういった、誰しもが感じるような疑問に答えてくれているのが、音声ガイドだと思うんです。ガイドを聞けば、絵に対する正解…ではないですけど、スッキリとした一つの考え方を得ることができると思うんです。もちろん、美術作品の楽しみ方は様々で、必ずしもガイドで提示された絵の見方だけが正解であるとは限らないと思うんです。でも、絵を見て感じた疑問に対して、「ああ、そうか」と腑に落ちるまでが、より速くなると思うんですよね。そこが音声ガイドのいいところかなと思います。また、ガイドの中では南米の特徴的な音楽も流れるので、音楽とナレーションの相乗効果で楽しめるのもいいですよね。」

なるほど、「腑に落ちるまでが速い」というのは凄くよくわかります。特に今回は、会場でガイド機を借りるタイプに加え、専用のスマホアプリでダウンロードして視聴するタイプも用意されているので、絵を見たあとに、改めて、自宅や電車の中で復習がてら聞いてみるといいかもしれませんね。

僕も、会場内や自宅で、通して5回以上は聞いたのではないかと思います。図録やキャプションには掲載されていないような情報も聴けるし、作品画像もすべてスマホ画面に表示され、それを拡大して鑑賞できたりするのも嬉しいサプライズでした。

ぜひ、ボテロ展では音声ガイドを活用してみてくださいね。伊東さんの美声、たっぷりと堪能できますよ!

PS そうそう、僕もボテロ展公式HPで「ボテロ展」特別コラム(全10回)を書かせていただいています。もしよろしければ、こちらもあわせてご覧くださいね!
https://www.ntv.co.jp/botero2022/special/dr6e7kkga8c49x6s.html

展覧会基本情報

ボテロ展 ふくよかな魔法
展示会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
展示期間:2022/4/29(金・祝)~7/3(日)
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
展覧会公式HP:https://www.ntv.co.jp/botero2022

伊東健人・プロフィール

声優。東京都出身。主な出演作に「2.43清陰高校男子バレー部」(小田伸一郎役)、「ヲタクに恋は難しい」(二藤宏嵩役)、「アイドルマスターSideM」(硲道夫役)、「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」(観音坂独歩役)など。

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