イギリス・ロンドンで歴史をたどる旅

2025年4月、日本の桜が散りかかる頃、八重桜が満開のロンドンを訪れました。曇りが多いロンドンですが、滞在した一週間は雨がほとんど降らず、毎日持ち歩いていた傘を開くことはありませんでした。

今回は、ロンドンの歴史を重ねた5つの建物を紹介します。

テムズ河の北側、東のタワー・ブリッジから西のウェストミンスター橋までにある、ロンドン塔、セント・ポール大聖堂、ウェストミンスター寺院、バッキンガム宮殿、ロンドン郊外のウィンザー城の順で紹介します。

テムズ河をつなぐ橋

タワー・ブリッジ 手前の染井吉野も満開

ロンドン塔に近い「タワー・ブリッジ」は19世紀末につくられた跳ね橋です。二つの塔をつなぐガラス張りの遊歩道は、床の一部がガラス製でテムズ河を見下ろすことができます。ボートに乗ると、タワー・ブリッジとウェストミンスター橋の間を30分ほどで結びます。

テムズ河から下流を望む、左にロンドン・アイ(観覧車)、右にビッグ・ベン

紹介する5つの建物は長い歴史があり、見所がたくさんあります。日本語音声ガイドを聞きながら充実した見学ができました。思った以上に時間がかかり、最低3時間は必要です。最後に情報を掲載しますので、ご参照ください。

1000年の歴史を刻むロンドン塔

トラヤヌス帝像とロンドン・ウォール、この後ろにロンドン塔

ロンドン塔に近い地下鉄「タワー・ヒル駅」のそばに、石の壁「ロンドン・ウォール」の一部が残っています。この壁は紀元200年頃に、ローマ帝国が属州ブリタニアを統治するために建設し、テムズ河の北、セント・ポール大聖堂までも含むものでした。

ロンドン・ウォールの前には、ローマ帝国の領土が最大だった時の皇帝トラヤヌス(在位98~117年)の像が立っています。これは1950年代に地元の再開発を記念したものです。

ロンドン塔の対岸に高層ビルがそびえる

ここからは1000年の歴史を持つロンドン塔と21世紀の高層ビルを同時に見ることができます。ロンドン塔と並んで見える尖ったビル「ザ・シャード」は2012年に竣工した高さ310m、地上87階のビル、新しい観光スポットです。

ロンドン塔は11世紀にイギリス王室を開いたウィリアム征服王(在位1066~87年)によって築かれた城塞です。「ホワイトタワー」と呼ばれる初めの要塞を囲むように拡大し、城塞全体がロンドン塔です。

長い歴史のなかで王の居城や牢獄、公文書館、財宝保管所、銀行など、さまざまな役割を果たしました。現在は博物館として公開され、世界最大のダイヤモンドがついた王笏や中世の武具なども展示されています。1988年に世界文化遺産に登録されました。

ロンドン塔

ロンドン塔はヘンリー8世(在位1509~47年)が2人の王妃を処刑し、ヘンリー8世の長女メアリー1世(在位1553~58年)がレディ・ジェーン・グレイを処刑した場所でもあります。その場面を描いたポール・ドラローシュの絵画《レディ・ジェーン・グレイの処刑》は2017年「怖い絵」展(上野の森美術館、兵庫県立美術館)で来日しました。今回、ナショナル・ギャラリーで実物を見ると、縦2.5m横およそ3mの絵画で、暗い背景に白いドレスを着たジェーンの姿に迫力を確認しました。

ロンドン、ナショナル・ギャラリー所蔵作品《レディ・ジェーン・グレイの処刑》1833年

参照:ドイツ文学者・中野京子が語る「怖い絵」って何だろう?

セント・ポール大聖堂西側 

セント・ポール大聖堂は、604年に建設された木造の建物で675年に焼失しました。その後、破壊、焼失、復興を繰り返しました。現在の建物は、1666年9月のロンドンの五分の四が焼失した大火の後にサー・クリストファー・レン(1632~1723年)の設計によって、1711年に完成しました。イギリスのバロック様式を代表する建物で、内部には細部にまで装飾が施されています。1981年にチャールズ王子(現国王)とダイアナ妃が結婚式を挙げたことでも有名です。

テムズ河の対岸からもドームがよく見える

ドームは直径34m、高さ111m、内部から階段で上ることができる3つの回廊があります。「ささやきの回廊」は257段の階段の先にあり、ドームの内側を1周して、堂内を見渡すことができます。

その一段上の「石の回廊」はさらに109段、最上階の「金の回廊」まではさらに152段の階段があります。この2つの回廊はドームの外側にあり、ロンドンの眺望が望めます。体力が充分ある内にドームに行くことをおすすめします。

東端に主祭壇、天井にはモザイク画(絵はがき)

ドームの下には広い空間があり、ナポレオンを破った英雄ウェリントン公(1769~1852年)の葬儀には1万3000人が列席したほどの広さです。

19世紀後半、神聖な空間にするために東端が豪華なモザイクで装飾されました。モザイクは荒削りのタイルを用い、ざらざらした表面と金が窓から降り注ぐ光を受けて輝いて見えました。

アン女王(在位1702~07年)像

内部にはネルソン提督からフローレンス・ナイチンゲールなど、国家的に重要なさまざまな人物の記念碑や、ヘンリー・ムーアの彫像、現代作家ビル・ヴィオラの映像作品、世界の大都市を巡回したウィリアム・ハントの絵画《世の光》(1900年頃)など、芸術作品もあります。

地下はイギリスの偉人、著名人の墓所になっています。イギリスで著名な画家のひとりウィリアム・ターナー、19世紀の画家フレデリック・レイトン、ジョン・エヴァレット・ミレーなどの墓もあります。現在もミサが行われています。

尖塔が並び立つゴシック様式のウェストミンスター寺院

ウェストミンスター寺院の南側、左にビックベン

地下鉄「ウェストミンスター駅」を出ると、テムズ河にかかるウェストミンスター橋、南にロンドンのシンボルというべき「ビックベン」が見えます。ビックベンは11世紀に建てられた「ウェストミンスター宮殿」の一部で、16世紀半ばから国会議事堂として使われています。その西側にウェストミンスター寺院があります。

ウェストミンスター寺院と、隣接するウェストミンスター宮殿、聖マーガレット教会は1988年に世界文化遺産に登録されました。

ウェストミンスター寺院の北側 バラ窓がある

東のセント・ポール大聖堂に対して、西(ウエスト)の修道院(ミンスター)として11世紀に建てられ、13世紀に改築してゴシック様式となり、尖塔とステンドグラスが特徴です。

ヘンリー7世の聖母礼拝堂、後ろにヘンリー7世の墓(絵はがき)

東奥に「ヘンリー7世の聖母礼拝堂」があります。細かく枝分かれしたアーチ状の天井や、美しいステンドグラスも見どころのひとつです。手前の旗が立っているのは聖職者の席です。

左右の側廊(脇の通路)や床、壁には墓碑や記念碑があり、科学者ニュートン、探検家リビングストン、音楽家ヘンデルや、詩人シェイクスピア、ワーズワーズ、バイロンら英国が誇る文豪の碑が並んでいます。

エリザベス1世(在位1558~1603年)の墓

ウェストミンスター寺院は、11世紀にウィリアム征服王が戴冠式を行い、歴代の王の戴冠式や王族の葬儀、結婚式が行われています。2022年にエリザベス2世(在位1952~2022年)の葬儀、2023年にチャールズ3世の戴冠式が行われました。多くの君主が眠る「王家の墓所」でもあります。

西側の西門

二つの塔がある西側は、本やWebなどでよく紹介される場所です。

西門には20世紀の殉教者10人の像

西門を見上げると、アーチの上に20世紀の殉教者の10体の像があります。左端は長崎で布教をしたポーランドのコルベ神父(1894-1941年)、5人目はアメリカのキング牧師(1929~68年)です。現在も教会として礼拝や儀式が行われ、コンサートや講演会も開かれています。

祝賀のバルコニー、バッキンガム宮殿

中央にヴィクトリア記念碑、後ろにバッキンガム宮殿

ウェストミンスター寺院から西へ向かうと、バッキンガム宮殿があります。バッキンガム宮殿は1703年バッキンガム公の私邸として建てられ、1837年にヴィクトリア女王(在位1837~1901年)即位と同時に宮殿になりました。

三角屋根の下方に王室メンバーが並ぶバルコニー

国王の公邸、王族の公務の場としてバルコニーに王族が並び、祝賀行事が行われます。宮殿内部は夏期限定で一部が公開され、豪華な内装や貴重な家具や磁器、名画・彫刻の秘蔵コレクションなど、王室ならではの美術品を見ることができます。

衛兵交代式は中央門から前庭に入って行われる

衛兵交代は、5つの近衛歩兵隊連隊による勤務交代の儀式です。宮殿前の道「ザ・マル」を軍楽隊に先導された連隊が通り、宮殿の前庭で交代式を行い、それぞれの勤務地、宿舎に向かって行進します。開催の日時、混雑状況、行進を見る場所などを確認してお出かけください。

キングス・ギャラリー「エドワード朝:エレガンスの時代」展 2025年4月11日〜11月23日

宮殿の南側にあるキングス・ギャラリーでは、旅行時に「エドワード朝」の展覧会が開催されていました。イギリスで最もファッショナブルな2組の王室カップル、ヴィクトリア女王の長男エドワード7世(在位1901~10年)とアレクサンドラ王妃、孫のジョージ5世(在位1910~36年)とメアリー王妃にまつわる、エドワード朝時代の豪華さと魅力を探る展覧会です。

儀式を描いた絵画のそばに描かれたドレスの実物が展示され、国王が世界各地を訪問した写真には、スフィンクスが砂に埋もれていた場面もありました。入口で日本語の解説冊子を借りることができます。

緑が豊かなグリーンパーク

バッキンガム宮殿の回りには緑の公園が広がっています。宮殿を背にして、左にクリーンパーク、右にはセントジェームスパークがあります。両公園は16世紀にはヘンリー8世の狩猟場でした。

ロンドン郊外の王宮・ウィンザー城

ウォータール駅からウィンザー城へ向かう沿線に羊たち

ウィンザー城はロンドンから西に鉄道でおよそ1時間、世界最古かつ最大の現役の王宮です。11世紀にウィリアム征服王がロンドン西部の拠点として築城し、歴代君主の居住地として使用されてきました。

ウィンザー駅からゆるやかな坂道を向かう

19世紀にゴシック様式への改修が行われ、1992年の火災後、大規模な修復が行われ、観光名所としても多くの人々に親しまれています。

ウィンザー城全容(絵はがき)  左にラウンドタワー、右下にセントジェーム礼拝堂
セント・ジョージ礼拝堂(絵はがき)

見どころの一つはゴシック様式のセント・ジョージ礼拝堂で、王室の重要な宗教行事が行われる場所です。

15世紀に建設され、歴代国王や王族の墓所としても知られています。エリザベス2世やフィリップ殿下もここに埋葬されています。精緻なステンドグラスや天井の装飾も見どころで、厳かな雰囲気の中で王室の歴史に触れることができます。

ヴァン・ダイク《馬上のチャールズ1世とサン・アントワープの領主の肖像》 1633年

国の公式行事も行う部屋がいくつもあり、時代ごとの建築様式が取り入れられています。天井にはシャンデリアが下がり、金箔が施され、壁にはホルバイン、ルーベンスやレンブラントなどの名画が2段、3段に掛けられています。

チャールズ1世(在位1626~49年)はルネサンス、バロックの名画を多数収集し、フランドルからヴァン・ダイクを招いて多くの肖像画を描かせました。

ピーター・ブリューゲル(父)《幼児虐殺》 1565~67年

聖書の「幼児虐殺」は、イエスの誕生を聞いたヘロデ王がベツレヘムの2歳未満のすべての子供を殺すよう命じ、実行した場面です。17世紀初めに、幼児虐殺を隠すように、幼児を食べ物や動物に塗り替えました。1988年の保存作業では上塗りを重要かつ歴史的にも意義があるとして残しています。フランドルの画家ブリューゲルの特徴でいくつものエピソードがちりばめられています。

大人気のミニチュアハウス「クイーン・メアリーズ・ドールハウス」は1920年代に製作されました。ジョージ5世の王妃メアリーのために作られ、家具や食器、本、電気・水道設備まですべて本物のように機能します。残念ながら、長い行列ができていたので、入室を諦めました。

充実した訪問のために

八重桜満開 バッキンガム宮殿付近

【ゆとりをもって計画を】見学には音声ガイド(日本語もあり)があると理解が深まります。広くて見どころが多いので、見学には思った以上に時間がかかり、最低でも3時間、カフェ、レストラン、ショップにも寄るならばもっと時間がかかります。

予定時間より少し早く到着して、回りを歩いたり、外観の写真を撮ったりすることをおすすめします。歩きやすい服装、荷物は少なめにしましょう。

ロンドンのおみやげ ガイドブック、紅茶、クッキー、ぬいぐるみ

ショップには絵はがきは、オリジナルグッズもあります。公式ガイドは、その場所でしか買うことができないこともあります。

【予約は必要】予約がなくても入れる場合もありますが、現地でチケット売り場を探すよりも、日本で予約して、プリント持参かつスマホにも写真で保存しておくと安心です。予約は公式ホームページを確認して行いましょう。チェックする項目が多いので、スマホよりも画面が大きいタブレットやパソコンがおすすめです。

【公式ホームページ】最新情報で、開館日、開館時間などを確認してください。多数の写真で見学場所やショップ、レストランも紹介しています。入館料は年齢などによって異なり、一般は4000~6000円です。英文には翻訳機能を利用しましょう。

ロンドン公式ビジターガイドhttps://www.visitlondon.com/
ロンドン塔www.hrp.org.uk
セント・ポール大聖堂院www.stpauls.co.uk
ウェストミンスター寺院https://www.westminster-abbey.org/
バッキンガム宮殿 https://www.rct.uk/visit/buckingham-palace
ウィンザー城 https://www.rct.uk/visit/windsor-castle

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