江戸時代後期、日本各地の大名は、傾いた藩の財政を立て直すために殖産興業を目指して様々な特産品を生み出しました。中でも、明治維新の立役者となった薩摩藩で生み出された薩摩切子や薩摩焼といった陶磁器やガラス工芸は有名です。
ですが、この時期、薩摩藩で生み出された特産品に「錫」製品があったことはあまり知られていないのではないでしょうか?
今回は、江戸時代初期から作られ、幕末の藩政改革で大きく生産量を伸ばして、現在に至るまで鹿児島の名産品として知られる「薩摩錫器」についてレポートしてみたいと思います。
薩摩錫器の歴史は江戸時代初期から!
鹿児島県(薩摩藩)で「錫製品」の制作が始まったのは今から約350年前。4大将軍・徳川家綱の治世下にあった1656年、薩摩藩の家臣・八木主水佑元信(やぎもんどのすけもとのぶ)によって錫山が発掘されたことがきっかけでした。
この発見は、薩摩藩に大きな利益をもたらすことに!
錫は、人体に害がないうえに、融点が低く、加工しやすい金属です。飲食器や工芸品、大砲の砲身に利用されるなど、江戸時代当時から幅広い利用用途がありました。錫器は、町人文化の中で高級感のあるものとして、主に武家や商人の間で使われていたそうです。
庶民の間で錫器が生活の中へと本格的に普及したのは、生産技術が向上した明治時代以降。特に鹿児島では、どの家庭にも様々な錫器が普及し、地域に根差した伝統文化となっていきました。
残念ながら錫山は約30年ほど前に創業を終了。現在は、主にマレーシアからの輸入品を使用して、錫製品が生産されています。
そんな使い勝手のいい金属・錫を使った「錫器」には、どんな特長があるのかご存知ですか?そこで、4つの特長をまとめてみました。
お酒や食事を引き立てる、錫器のすごい4つの特徴
①割れない、錆びない
比較的柔らかい金属で割れないという特長があります。空気中でも水中でも錆びない性質があります。また、人体に有害な物質が水中に溶け込んで健康に影響することもありません。
②水が腐らない
錫は、分子が粗く、不純物を吸収し、水を浄化すると言われています。
③お酒がまろやかに
錫には、イオン効果、抗菌効果があり、お酒がまろやかになると言われています。
④密閉性が高い
茶葉などの保存に最適と言われています。
薩摩錫器工芸館について
では、現在はどんな製品が、どのような工程で制作されているのでしょうか?そこで、今回取材で訪問させていただいた「薩摩錫器工芸館」で、工房内の様子を見学させていただきました。
「薩摩錫器工芸館」は、鹿児島県霧島市で薩摩錫器を制作する有限会社岩切美巧堂の創業100周年を記念して2016年9月にオープンした本格的な展示販売施設。霧島市の新たな観光スポットとしても人気です。
工芸館には、「ショールーム薩摩」(展示室・資料室)、「ギャラリー霧島」(イベントホール)、「アトリエ桜島」(体験室・休憩室)の3つのゾーンが設けられており、楽しく見学できました。
資料館では、昔使用していた、焼酎を作る際に使用していた蒸留冷却用の錫管も見ることができました。「ショールーム薩摩」では、常時500点の作品を展示・販売しています。
気になったのは、ほのかにピンク色を帯びた茶筒。可愛いです。
また、「アトリエ桜島」では、実際に錫皿制作体験も可能。私も、チャレンジしてみました!
簡単に工程をご紹介します。
①道具の確認
②鉛筆と定規で線を引く
③線の上にアルファベットや数字を刻印
④中心を押さえ、皿の周りを叩く
⑤皿の周りにカーブをつける
出来上がり!
丁寧に教えてくださるので、大人から子供まで一緒に楽しめます。
世界で一つのオリジナル錫皿。
旅の思い出にオススメの体験です。
錫皿制作体験と錫器に関するビデオ鑑賞、お買い物等ができる自由時間を含めた約60分の体験です。
工場の見学もさせていただきました!
当日は、工房の見学もさせていただきました。
削られる前はこんな感じ。
削られていくと、どんどんピカピカに!職人さんの熟練の技を間近で見ることができました。
最後に
「芋焼酎」や「薩摩切子」など、多くの伝統的な特産品で知られる鹿児島県ですが、錫器もまた面白いものが一杯揃っています。鹿児島観光に来たら、お酒や食事を引き立て、使い勝手も抜群の「錫器」をぜひチェックしてみてくださいね!
薩摩錫器工芸館:基本情報
住所:〒899-4332 鹿児島県霧島市国分中央4丁目18-2
TEL:0995-45-0177
営業時間:月~土 8:00~12:00/13:00~17:30
日:9:00~12:00/13:00~17:00
公式HP:https://www.satsumasuzuki.co.jp/