粋な”赤い子”あかいくつ号、知られざる横浜が見えるとき

クリーム色に赤いレトロな車体。その名は「あかいくつ」。横浜市内を颯爽と駆け抜けるその姿は、みなさんも街の随所で見かけたことがあるかと思う。粋な赤い子、とは筆者個人が愛着をこめ、呼んでいる呼称であるが、漢字で硬く「赤い靴」ではなくひらがなで「あかいくつ」というまろやかさも手伝い、いっそう愛くるしい存在である。

乗ったことがない方でも、その特徴的な姿には目を引かれ、「おっ、かっこいいな」と思ったことがあるだろう。それでは、この子が見せてくれる横浜はどんなものだろうか。今回はその魅力に迫った。

動く観光案内~街を行く粋な”赤い子”

2005年生まれのあかいくつ号。横浜市民からの公募によりその名は「あかいくつ」に決定された。赤を基調としたレトロ仕立ての車体、横浜港を舞台とした童謡「赤い靴」、そして横浜観光の新しい足として気軽に利用できるといったイメージに合っていたという。

横浜開港150周年を記念して走り出したあかいくつ号。周遊バスデビューから今年で早19年。湊町にふさわしい、まろやかレトロなその姿は横浜によくなじみ、今やすっかり横浜の顏として親しまれている。さしずめ「動く観光案内」でもあるあかいくつ号。だがそのよさは移動の便利さだけではない。観光要所とそのルートを行くあの赤い子はどこを通っても絵になり・・・カッコイイ!のだ。

侮るなかれ、あかいくつ。見かけの愛らしさのみならず、うまく使うと各スポット間をスイスイ移動。市営のため料金も安く、通常の横浜市営バス同様、大人なら一人220円で移動できる。1日乗車券(市営バス全線1日乗車券 大人一人600円)も利用でき、3回以上乗る場合はみなとぶらりチケット(横浜ベイエリア1日乗車券 大人一人500円)も便利だ。

JR桜木町駅前から出ているあかいくつ号。

まずは乗り場から。JR桜木町駅前から出ているあかいくつ号。南改札(東口)を出るとすぐ、横浜エアキャビンの袂に「3番のりば あかいくつ」の案内が見える。この矢印の方向に歩いていく。

こちらが乗り場。

乗り場では足元のあかいくつマークラインに並べばOKだ。観光客のみならず、日ごろから市民の足としても親しまれているあかいくつ号。誕生以来、今や市民にはすっかりおなじみの身近な存在だ。「あかいくつはこっちよ」。乗り場付近にて、乗客間ではそんな言葉が交わされ、天気がいい日などは平日の昼下がりを回ってもなお利用者が絶えず、親しまれている。

乗り方は前乗りの後ろ降り。運賃は乗車時に前払いで、みらとぶらりチケットや一日乗車券の人は乗車時に日付印字面を乗務員さんにご提示を。ICカードの人はカードリーダーにピピッとやればOKだ。(現金・ICカードともに大人1回乗車220円)

発着点桜木町駅前から平日日中の利用客の様子。天気のいい日は平日でも乗客が絶えない。
乗り場のすぐ近くには鮮やかな花たちが健気に咲き誇る。みなとみらい21地区の企業や団体の協力でされている地区内の緑・花推進活動を足元に見ることができる。乗り場の近くのため、街をいろどる花たちもぜひ見て目と心の保養を。
2023年10月1日のダイヤ改正にともない、時刻表が変更となった。現在運行は平日日中は20分おき、土日祝は15分おきに出ている。平日でも割と便があり、利便性は十分だ。
あかいくつ周遊ルートマップ。およそ78分かけて主要観光スポットを一周後、ふたたび桜木町駅前に戻る。

デビュー以来、幾多のルート変更を経てきたあかいくつ号。現行路線では上の写真のAルートのみで運行がされている。赤レンガ倉庫日本大通り中華街エリア、山下公園港の見える丘公園など横浜屈指の主要観光スポットをめぐる桜木町駅前発着の循環便である。これをおよそ78分かけて一周するルートだ。とはいえこれは状況次第とも言えるかもしれない。最後まで降りずに乗ったところ、比較的人の乗車が少なく渋滞もないような日は65分ほどで桜木町駅に戻ってくることもあった。いずれにしてもノ~ンビリ心地よく揺られながら行く周遊バスのため、目的地に早く行きたい人にはおすすめしないまったり号である。

バス内のアナウンスは横浜出身のアナウンサー・渡辺真理さんの音声ガイダンス。その一方でアナウンスを妨げないようにしつつ、個性の違う運転手さんがそれぞれ基本情報とはひと味違ったオリジナルのガイドをする。

ルートについては、CルートにMルートといったかつてのルートが記憶に新しい方も多いのではないだろうかと思う。それぞれCルートのCは中華街のChinatown、MルートのMはみなとみらい(Minatomirai)から頭文字をとったものであり、Cルートは古きよき横浜を、Mルートはアンパンマンミュージアムやカップヌードルミュージアムなどをめぐっていた。2020年7月、日野自動車といすゞ自動車共同開発による日本初のハイブリッド連接バス ベイサイド・ブルー導入にともない、みなとみらい地区の路線再編によりMルートは廃止。CルートはAルートに変更されたため、以前のルートを覚えている方はご注意を。

目まぐるしく発展するみなとみらい地区。その地区開発に合わせて度々ルート改編を重ね、近年には2019年開業のハンマーヘッドもあかいくつルートに仲間入りした。今やシンプルにAルート1本となったが、それでも利便性は十分だろう。何しろこれ1本で横浜の主要観光スポットを周れるのだ。

なお、市役所口からは朝・夕のみのあかいくつ便が出ているが、こちらはハンマーヘッド止まりのためご注意を。(こちらは前日をもって廃止となったピアラインの一部を引き継ぐ形の朝夕区間便となっている)。

あかいくつ内装注目あらかると

気取らずレトロかわいらしい外見のあかいくつ号。昔の路面電車をイメージした観光仕立てで、手掛けているのは東京特殊車体株式会社。「港ヨコハマ」をイメージした木目のレトロ調やステップなど、随所に粋な計らいがあしらわれているのは観光バスならでは。乗車時には細かいところもぜひ注目してほしい。

横浜開港150周年を記念して造られたことに由来し、ナンバープレートはすべて「150」に統一されている。ここにも垣間見る粋な計らいである。
座席ステップにはレンガを彷彿とさせるデザインがあしらわれている。こちらは赤レンガ倉庫をモチーフにしているという。
座席は深紅の生地を明るい温もりのある木枠で縁取ったお洒落シート仕立て。木枠のまろやかなカーブもやさしい。体をあずけるように座ると、心地よい弾力がふわり。色合いといいやさしい温もりといい、馬車道十番館の椅子を彷彿とさせるかもしれない。
そしてかまぼこフォルムな窓。このように窓も観光仕立て。大きめの車窓に横浜の風景が映り込み、 普段見慣れたこの街もひと味違って見える。
ガイドマップなどを片手に、あかいくつ周遊に心を弾ませる乗客。

大人も嬉しいレトロ浪漫仕立てなのだから、いつもと違うバスに子どもならテンションも上がって喜ぶだろう。横浜が初めてという知人友人を案内するときなども一役買い、移動エネルギーをかけずして要所要所をスイスイめぐることができる。

ぱっと見は近いが・・・何気に時間がかかる横浜名所

スイスイ移動の話しが出たところで、ここでちょっと横浜名所間の徒歩移動について振り返っておきたい。

横浜屈指の観光名所といえばみなとみらいに赤レンガ、大さん橋、山下公園、中華街そして山手の洋館・・・これら名所はぱっと見は近いように見えるかもしれない。が、しかし。これを徒歩でそれぞれスポット間を移動しようとすると、想像以上に離れている。見た目の距離感とは裏腹に、何気に移動時間が想像以上にかかるのだ。日ごろから健脚で、ある程度体力があったり長距離を歩き慣れていたりする場合などは話しは変わるが、これがなかなか侮れない。子連れともなるとなおさらである。どこを取っても絵になる横浜、あっちへこっちへ寄り道。水分補給用に飲み物なども持ち歩く上、さらにお土産などの買い物をすれば手荷物も増え・・・侮るなかれ、横浜観光。なかなかのハードワークなのだ。

開港プロムナードより。なかなか距離がある名所間歩き。景色はいいが・・・桜木町駅まで1.75km・・・。

僻地王・山手の丘エリア。急勾配だよ谷戸坂

そのなかでも群を抜いてハード指数が高いのが、山手の丘なる谷戸坂(やとざか)ではないだろうか。横浜山手エリアの名所といえば、外国人墓地や建ち並ぶ数々の洋館、公園などがある。だがこれらは丘の上にあるため、行くためにはこの山手のパワフル坂が立ちはだかり(ドゥーーン!!)、どうしても避けられない難所でもある。

みなとみらいゾーンの名所間徒歩移動もなかなかのものだが、パワフル坂としても名高い谷戸坂。これを歩いていこうものなら健脚でもかなりのエネルギーを使う。一度でもこの坂を歩いたことがある方はお分かりかもしれないが、これは横浜観光地の中では僻地王ラスボス並みに厳しい。観光もなかなかどうして楽ではないのだ。

遮るものなし、陽射し直撃の湾岸エリアは熱中症にも注意!

ましてや夏のみならず、春の熱中症が相次いでいる今日このごろである。暑い夏の日になるイメージが強い熱中症だが、気温が高くなくても油断できないだけに春こそ危険な熱中症だ。みなとみらいのような開けたベイサイドエリアともなるとなおさらで、春でも直射日光直撃の散策は十分厳しいものがある。

みなとみらいに山手の丘。名所同士をつなぐペデストリアンデッキやプロムナードなど、歩行者デッキは目的地に迷わずたどり着けるのはいい。観光遊歩道のため何かと景色もきれいだ。ただ名所間すべてを歩いて行こうものならトータルで相当歩くことを覚悟しなければならない。そうなるともはや普通のウォーキングを越え、パワーウォークレベルである。いずれも場所自体、素敵であり運動を兼ねての観光なら別だが、いずれにしても駅からある程度エネルギーを使って歩かないとたどり着かない「何気にきつい」僻地でもあるのだ。

元町から山手迎賓館を曲がり、ここからは谷戸坂だがこれがまた急勾配!

そこで登場、あかいくつ号。横浜の主要観光スポット間を結ぶあかいくつ号ならそんな移動もスムーズだ。

「この先、とても急な上り坂です。おつかまり下さい」。元町から山手迎賓館を横目に谷戸坂に差しかかる直前、バス内アナウンスは伝える。その通りかなりのパワフル坂である。しかしあかいくつ号ならそんな難所もスムーズだ。歩くエネルギーを節約し、見て回る余力を温存しながら散策ができる。バスに引っぱってもらって改めて分かる山手の丘のパワフルさかもしれない。

下りもまた「この先、とても急な下り坂です。おつかまり下さい」アナウンス。下り坂を見てなおさら分かる傾斜ぶり。急傾斜、ヒーコラキツいぜ山手坂。とは詠み人知らずならぬあかいくつ号でのお疲れ知らずなら詠める一句かもしれない。

それを踏まえてなお、やはりコスパのよさを実感できるだろう。それまで大人一人100円だった運賃だが、財政事情により2016年10月1日をもって220円に改定された。値上げは話題になったものの、それでもコスパ十分ではないだろうか。何しろ快適に移動できることで歩いて回るより格段にエネルギーを温存できる。

主要観光スポットもあかいくつなら疲れ知らずでひとめぐり。外歩きが厳しい日も楽々アクセスである。もはや使わない手はない。多少の渋滞もご愛嬌、何しろ観光周遊号である。渋滞もまったり愉しむぐらいでちょうどいいのかもしれない。

ここ通る、こう見える。あかいくつ号のある風景

それでは、あかいくつ号から見える横浜や、横浜の随所から見えるその姿はどう映るのだろうか。横浜の名物バスなので既に知れ渡っている代表的な名所での光景はここでは敢えて割愛し、以下、車窓から、降りてからなどあまり知られていないあかいくつ号ならではの景色をまとめた。

周遊ルートは各名所間を結んでいるためその一帯自体がすでにどこを切り取っても十分絵になる。名所での姿ももちろん素敵に違いないが、それに劣らない勢いで何気なさ、さりげないところでこそこの赤い子のよさが際立つと言えるかもしれない。

車窓から。乗車早々に新緑ともグッと距離が近づく。すてきな木の緑。
万国橋を渡っている最中。車窓からみなとみらい絶景ゾーン。ランドマークタワーにコスモクロック、空中散歩中のエアキャビンも入りこむ。小さなかまぼこ窓にワイドな横浜のシンボルたちが収まっているという感覚的なおもしろみもポイント。
そしてそこから間髪を入れずこの光景!新緑の下にランドマークタワーという、なかなか見られない組み合わせがあかいくつ号の車窓から臨める。太陽が一帯を祝福するように等しく陽射しを落とす。突き抜けるような快晴もいいひとコマをつくり出していた。素敵同士が最高の形で出逢った瞬間である。
新港エリア、ハンマーヘッド前にて。コスモクロックチラ見え。大さん橋などから全体がドンと大胆に見えるパノラマ光景もまさに横浜だが、かまぼこ窓からこんな風に一部がチラ見えするのもオツなもの。これはこれでなかなかワイルドである。サークルウォークの骨組みも徒歩より近い距離で大胆に拝見できる。
そしてハンマーヘッドに到着。世界でも希少な土木遺産ハンマーヘッドクレーンも、バスに乗って拝見するからこそ通常より大胆に感じられる。
海にもかなり近くまで接近する醍醐味。コーナーをゆ~っくり回りながら海上保安の2隻を見送り・・・
その先のバス停に収まるような形で豪華クルーザーが停泊。あるだけでかっこよさため息級、思わずシビレる。運がいいと行く先々で思いがけずこうした光景にも出遭える。バス内の外国人観光客も「見て~、そこにクルーザーが停まっているわ!」という具合に感激し目を引いていた。
ここを通るときのあかいくつ号は最高に絵になるのではないだろうか。日本大通りの延長線上にして横浜DeNAベイスターズの本拠地横浜スタジアムからほど近い当該地は、周辺一帯が整備され並木の緑に赤いレトロな車体も映える。
頭部分だけひょっこり見えるよあかいくつ。レトロボディ全体も素敵だが、中央にランプをつけた頭部分だけぴょこんと出た姿も見逃せない。あかいくつ号はこのコーナーをヨイショッと!と言わんばかりに曲がり、中華街の裏通りに当たる開港通へ入っていく。
なお、この姿が見える当該地はこちらである。コーナーにあるフレッシュネスバーガー山下店、その向かいのローソン・スリーエフ日本大通店、バス停なら薩摩町中区役所前が目印だ。ここを曲がり開港通を行く間、開いた車窓の外から中華料理のゆたかな薫りが漂ってくる。裏通りとはいえやはり中華街には違いないことが分かる、ヨコハマの薫りである。
上記当該地を行く少し前の姿。日本大通り駅県庁前を走るあかいくつ号。ここも絵になる。
こちらはふたたびあかいくつ車窓から。中華街とお洒落な元町お買い物ストリートの間をひっそりと流れる中村川(元町付近では堀川と呼ばれる)。首都高神奈川3号狩場線が上に走り、いつも薄暗いが車窓越しの川面はまた違って見えるかもしれない。春先には橋の袂に咲く桜もいっそう麗しく映るだろう。
港の見える丘公園、噴水広場に到着。ここもシャッターを切る人が多い。ここはあかいくつ旋回ゾーンのため、車窓から噴水360°壮観が愉しめる。折り返すバスの動きに合わせ、ぐるーっとひと回りしながら拝見。これもあかいくつ号ならでは。ここを旋回するあかいくつの姿もなかなかかわいい。
周遊ルートの停留所はどこも主要スポットだが、赤レンガ倉庫前、中華街、山下公園などはとくにドドーッと人が乗降りする。平日日中でもこの通り。さすが人気観光名所である。
山下公園に到着。春先、芝生では野鳥たちが春をついばむ。ここが100年前の関東大震災瓦礫でできた公園とはとても思えないほど、ものすごく平和な光景だ。あかいくつ号のおかげで体力を温存でき、おなじみのこうした場所もいっそう新鮮に映る。
大さん橋にて。海のベランダなるデッキもなかなかの勾配。潮風をうけ、走るあかいくつ号。山手の丘ともども、ここでもまたグイーーンと懸命に登る姿は健気で勇ましい。見かけたらエールを贈ろう。

あかいくつ号のある風景はどこも絵になる。かっこいい車体がタダでさえどこを切り取っても絵になる景勝地を背景に走っているのだから当然絵になる。ポストカードにクリアファイル、あかいくつ号の風景も何かと商品アイテムになっているのも、ごもっともである。

もういくつも世の中に出回っている横浜名所の絶景ポストカードなどは素敵には違いない。そこに自分だけのオリジナルとっておきの一枚を追加することを、あかいくつ号はゆるしてくれる。世の中に出回っていない、でもたしかにいまここにある素敵な横浜の表情である。「ほら、素敵な一瞬、そこにもあるよ」。あかいくつ号は私たちに近くにありながらも意外と気がつかないでいる横浜のほほえみを、そっと開示してくれる存在でもあるかもしれない。

バス停間を行くからこそ・・・街中風景あらかると。

ここで、バス停間を行くからこその風景にも注目したい。バス停を下りたり、バス停間を歩いたりするからこそ改めて見えるこの街の表情もたくさんある。そこでおススメなのがあかいくつ+通常の市営バスコラボ。市営バス全線の1日乗車券なら大人一人600円と経済的だ。

観光スポット間はあかいくつ号をうまく使う一方、帰りは敢えて普通の市営バスを使う手もまたダブルトリプルで横浜の知られざる表情を確認できる。その一瞬のきらめきを見逃すまいと写真家などもこぞってシャッターを切る、夜の帳が完全に降り切ってしまう少し前のゴールデン時間帯はその表情もグッと色香を増すのでぜひ着眼してほしい。

市営バス横浜税関前停留所付近。景観法にもとづき、この界隈は市で景観推進地区として綺麗に整備されているため美しい街並みがつづく。通りにはガス灯も立つ。夕刻には周辺信号機の灯の鮮やかさも手伝い、一帯は匂い立つような色気を見せる。
警察本部前停留所付近。海岸通りに覗くランドマークタワー。信号機のエメラルドグリーンや周辺街灯の淡さがいい味を出し、火灯し時ならではの色香が増す。もはやポストカード化されてもおかしくないレベルである。
そして、足元。馬車道の記事でも触れたが、ここでもやはりときどき下を向いて歩いてほしい。湊町の遊び心が随所に散りばめられたタイルには、開港ゆかりのものたちが描かれている。
足元では船長が優雅にパイプをふかしていたり・・・
あかいくつや帆船、かもめもあり、ますます横浜らしさが閉じ込められている。
こちらは開港ゆかりのもの大集合編。
JR桜木町駅西口側より。火灯し時からさらに時が進み、夜の帳が降りる直前。横浜に魔法が降りてくる。

日中はあかいくつ、帰りは通常の市営バスの場合、桜木町駅行きの市営バスを使うと到着の停留所「桜木町駅前」は野毛に近い位置である。(アクセスとしては市営地下鉄ブルーライン連絡口が最寄になる)。ここで下ろされ、その後JR桜木町駅へ向かって歩くと飛び込んでくるのが上の写真の光景だ。これはあかいくつ号が出ている東口とは反対側に下ろされるからこそ見える表情。市営バスの頭部分を入れたツーショットで、こちらからはシンボルのランドマークタワーもこう見える。

時間にして18時ごろ(4月2日撮影)。夜の帳が完全に降り切ってしまうその寸前、一帯はフォトジェニック度を増し、何とも色気のあるワンシーンに変身する瞬間である。
あかいくつと市営バスの並行づかいは利便性も2倍増し。それでいて見られるのが、どれもがバスを使うからこそ出逢う、この街の表情である。乗っているときばかりか、バス停を下りてなお色香を放つこの街は、やはりフォトジェニック横浜・・・というより自然と字の方も「横濱」や「ヨコハマ」と思わず綴ってしまうほど、この街の表情が多岐に渡ることに唸るに違いない。

ヨコハマジックは街角で。粋なあの子は今日も行く。

ここは中華街裏通りにあたる開港道に入りこむ直前の並木道。目当てのあかいくつ号が桜木町駅前を出発し、ここに来るまでの所要時間はおよそ20分といったところか。時間を見計らいつつ”粋な赤いあの子”あかいくつ号の雄姿を収めるべく、日本大通り駅前を過ぎてやってくる彼女をじっと待っているとき、童心に帰ったように胸が高鳴り、ワクワクした。この界隈一帯は綺麗に整備され、並木の新緑もみずみずしい。あの赤い車体はこの並木道にじつによく映え、この道に差しかかる瞬間は一番絵になるように思う。来るまでの間、現地でどの立ち位置から収めたら一番彼女がきれいに撮れるか探りつつ、その雄姿を見逃すまいと位置をとって待っていると、ほどなくして彼女はやってきた。美しい新緑の道に、愛らしいレトロ仕立ての赤い車体。素敵な両者が出逢ったその瞬間はまさに横浜マジックだ。

横浜の粋な計らい、あかいくつ号。いつ見かけても絵になって素敵で、この街に誕生して以来、市内外問わず多くの人びとに親しまれてきた彼女。以前に取り上げた開港当初の馬車をはじめ、鉄道に市営バス、近年ではエアキャビンも加わり、横浜は交通の歴史の翼を拡げつつある。あかいくつ号も間違いなく湊町横浜の風景に一筆加わった。

あかいくつ周遊ルートでもある新港エリアも然り、開港以来めまぐるしい発展を遂げている横浜。世界にも私たちにも日々いろいろなことがある。それでも、あかいくつやその車窓から臨む横浜の街、今回取り上げたような随所随所での表情は、私たちのすぐそばにある。桜木町を出発し、街中を駆け抜けることおよそ78分で横浜の中心街を一周するあかいくつ号。中区の主要観光スポットを効率的・経済的に廻れるばかりか、日常の足としてもさまざまな場所で頼りになる存在だ。この健気なあかいくつ号は横浜交通の歴史に取り込まれるばかりか、小さな車体ながらも随所で思いがけない横浜との出逢いをゆるし、そのよろこびは人びとの記憶の中にも取り込まれていくだろう。日中といい、夕刻といい、横浜は名所にかぎらず目に見える形でそのときそのとき随所で魔法がかかったような姿を見せる。あかいくつ号の車窓から、あるいはふと気の向くままに下車した街角のどこかで横浜の魔法に気づいたそのとき、いままでとはまた少し違って見える横浜があなたにやさしくほほえみかけるかもしれない。それも無償で手向けてくれるのだ。私たちのいるまさにその場所に、美しさやよさはある。私たちが目の前の無償の素敵な贈り物に気づけるよう、ただそこにいてくれるという意味では、ちょうどあかいくつのりば近くに咲く足元の花たちに、それは似ているかもしれない。利便性や経済性以上に、それこそがあかいくつ号からの最大のプレゼントではないだろうか。

「世界や毎日は大変だけど、いまここにもお祝いごとがあるんだよ。忘れないでね」あかいくつ号はそう語ってくれるような気がした。今日もお客さんを乗せ、このあとあの山手の厳しい坂道を行くであろう彼女にエールを贈るつもりが、むしろこちらの方があたたかいメッセージをもらったような瞬間だった。予定通り狙いの場所でその雄姿を無事カメラに収めると、車体をヨイショッ、と中華街方面へ方向転換し曲がっていく彼女の後ろ姿をじっと見送った。「ありがとう」。健気な後ろ姿とともにあたたかいメッセージを残して去っていくあかいくつ号に、思わずそんなひとことがこぼれる。この絶景スポット以外の場所でも街中で彼女を見かけると、あかいくつ号とあかいくつ号のある横浜がさらに多くの人びとに愛されつづけ、人びとの愛の記憶になるよう祈りつつその後ろ姿を見送っている。

観光地に住んでいるほど、案外当地の名物である乗り物には乗ったことがないという人も多い。市内外問わず「存在は知ってるけど、そういえば乗ったことはないな」という方にこそ、ぜひ一度乗ってみてほしい。ゆっくり走るあかいくつ号に何度も乗るたび、海や緑と急接近したり、時間帯や季節ごとに姿を変える横浜の魔法に気づくだろう。愛くるしい”粋な赤い子”は今日もこの街を駆け抜け、知られざる横浜との出逢いをゆるしてくれる。

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