楽しくて、わかりやすくて、1時間半のトークがあっという間でした!楽活のメインライターであり、人気アートブロガー青い日記帳 Takさんのトークイベント『美術館に出かけてみよう! ~いちばんやさしい美術鑑賞~』に参加してきました。
100席が満席となった大盛況のイベントでした。
8月29日に行われたこのトークショーは、美術鑑賞の入門書 ちくま新書『いちばんやさしい美術鑑賞』の出版を記念して楽活と丸善雄松堂で共催したイベントです。当日の参加費は無料だったこともあり、約100席はイベント告知後わずか数日で満席締切に。「美術鑑賞」に対する注目やTakさんへの期待度を計り知ることができます。
著者の「青い日記帳」Takさん(@taktwi)(中村剛士氏)とこの本の編集者である筑摩書房 大山悦子さんのお二人に加え、「楽活」からはファシリテーターとしてかるび氏(@karub_imalive)が参加したこのトークイベント。『いちばんやさしい美術鑑賞』出版にまつわる面白い裏話、目からウロコ!的な美術鑑賞術について様々なお話を聞くことができました。どの様な内容だったか、その一部をご紹介したいと思います。
出版のきっかけ
同じちくま新書から出版されている『美術館の舞台裏』(高橋明也 著)の重版祝いの会がきっかけだったとのこと。呼ばれた打ち上げの席で『美術館の舞台裏』の編集者だった大山さんから本を書かないか?と問いかけられたTakさん。はじめは酒の席の冗談だと思っていたようですが、しばらくして編集者 大山さんから届いたメールでそれが本気だったことを知りました。しかし仕事を引き受けたのは良いものの、まさか完成までに2年もかかるとは思ってもいなかったようです。
Takさんが第1章を試しに書いてみて、それを元に企画書を通して出版が決定。それから、どの様な構成にするか、どの様な作家や作品を選ぶかなどを話し合っていったそうです。「本を読んだ後にすぐに作品を見に行けるようなものにしたい。日本の美術館にある作品を本で取り上げたい。」というのはTakさんの発案でした。実際に発売後にこの本を持って美術館に行った人もいるようです。
執筆と編集のやりとり
書く作家や作品を決めたらまずはマンダラート(マンダラチャート)で内容を整理。このチャートが比較的すぐ埋まるものと埋まらないものがあったとか。チャートが埋まらず諦めたテーマとしては、浮世絵や現代美術の写真作品などがあったようです。ちょっと読んでみたい気もしますね……。
Takさんが書いた原稿に対して、編集者の大山さんが内容をまとめたり、入れ換えたり、削ったりする提案をしていきます。ついつい説明的な内容を書きすぎて「やさしくない説明文」的なものも出てきてしまったとのこと。時代背景を書きすぎたり、論じてしまったり。大山さんは常に、「専門家の書く様な内容は要らない。アートブロガーの書く一般の目線が欲しい。」との要望を軸として編集作業を重ねていったそうです。
ただし、大山さんが「この内容は、なくても良くないですか?」と指摘したものの、Takさんが最後まで譲らず、削除しなかったところも幾つかあるようです。その一つが、第若冲のところにあるわらしべ長者物語的なお話は名画を楽しむためのエピソードとして必須だったとのこと。また、他にもどうしてもそこを残したくて、他を削ったところもあります。それがどこかは……、是非、本を読んでみてご想像ください。ほんとにファンの心理ってものは(笑)!
鑑賞術のポイント
さてトークもいよいよ中盤に入ると、本に書かれた内容を元に、具体的な鑑賞術に触れていきます。例えば、少し聞き慣れないかもしれない、「カラーバス効果」と言う言葉。一つの色を意識することによって、そこに関する情報が自分に入ってくるという心理学用語です。Takさんはこれを絵画鑑賞に取り込みました。絵画や工芸作品と向き合う時、一つの「色」に着目することによって、より新しい発見があるのだと言います。
また、絵画の中に描かれた「手」に注目すると良いとのアドバイスも。古今東西、様々な巨匠たちは、絵画の中で人体を描く時、特に「手」のしぐさに意味を持たせることが多かったそうです。だからこそ、作家の技術や個性が手の描写にハッキリ出ているのだとか。また、中には手をあまり重視せずに描いている画家もいたりと「手」一つ見ても表現は様々です。
現代アートについての話もとても面白かったです。同時代を生きる作家を応援するということのよろこび。ギャラリーなどの展示で作った本人から直接話を聞くことが出来るというよろこび。知らない作家、まだ評価の定まっていない作家だからこそ知識などが邪魔をせず、自分の好き嫌いで評価できるということも。
本のタイトル~最後に
本のタイトルについても色々と悩まれたそうです。実は入稿時の仮タイトルは『美術鑑賞虎の巻』(笑)。虎の巻って……このままではいけない、と思ったTakさんは仲間と相談して色々なタイトル候補を挙げました。
これが、会議の俎上に上がったすべてのタイトル案。まさに、大山さんが「タイトル案1000本ノック!」と言うだけあって、様々な案が提出されました。これらを投げかけられた筑摩書房が最終的に決めた案が『いちばんやさしい美術鑑賞』だったのです。まさに本の内容にぴったりのタイトルに決まりましたね。新書の場合はなるべくタイトルを短くするのが好まれるので、「一番」でなく「いちばん」とわざわざ平仮名表記にしてあるのはとても珍しいそうです。
美術の見方は様々。この本に書いてあるのはそのヒントであって、そこから自分の鑑賞法を見つけて欲しい、そして美術を見ることを少しでも楽しんで欲しいとのこと。この本が展覧会を楽しむ、あと半歩踏み出すきっかけになれば、とTakさんは言います。
これから美術の秋・読書の秋。このレポートでもトーク内容の半分位しかお伝えできていませんが、美術鑑賞ってなんか楽しそうだなと思った方がいらっしゃいましたら、イベントや展覧会へ出かけたり、本を読んだりと様々なかたちで美術へ接してみてはいかがでしょうか?
【イベント概要】
<丸善雄松堂 知と学びのコミュニティ>
『美術館に出かけてみよう! ~いちばんやさしい美術鑑賞~』
会場:DNPプラザ(市ヶ谷)セミナー会場