小説って良いですよね。
映画や漫画、アニメも大好きですが、目に飛び込んでくる情報がほとんど無い小説も大好きです。頭の中で読者が理想の色彩で想像できるのが良いな〜と思います。
ファンタジーやSFのような架空の世界を描いた作品は、想像力を無限に羽ばたかせられるので、小説との相性が意外と良いのではないでしょうか。
今回は、SF的な世界観で恋愛を描く三秋縋さんという作家を紹介します。ご本人は小説家で、作品のいくつかはコミカライズもされています。
三秋縋さんってどんな作家?
三秋縋(みあき・すがる)さんは1990年生まれの小説家です。2011年〜2013年にかけて、インターネット上に作品を発表して話題となり、2013年9月に『スターティング・オーヴァー』で小説家デビューしました。
三秋さんの作品では、「寿命が尽きる直前に生きがいを見つけてしまった主人公たちはどうするのか?」がよく描かれます。SF的な世界観で、寿命や残りの人生の価値が明確にわかっており、無気力なキャラクターたちも最初は「自分の価値なんてそれくらいだ」というふうに受け入れています。
しかし、受け入れたあとに運命の人と出会い、人生の軌道が変わっていきます。寿命は変わらず、未来を覆すこともできないなか、三秋さんが描くキャラクターが選ぶ結末は、バッドエンドに近いハッピーエンド(いわゆるメリバ?)で深く胸を抉られます。
ここからは、三秋さんの作品を5つ取り上げて紹介します。青春らしい透明感のある恋愛だけど、幸せな結末が待っているとは限らない、苦味のある作品が好きな方におすすめです。
『君の話』
三秋さんの最新作は、記憶を消したり、架空の記憶をインストールしたりできる世界観のお話です。記憶を消そうと思ったのに、手違いで架空の青春時代の記憶を植え付けられた青年・天谷千尋が主人公。
記憶の中の幼馴染・夏凪灯花は架空の存在で、実在しないはずだったのに、ある日、灯花にそっくりな女性と出会います。彼女と交流するうちに、「たまたまそっくりな別人」では片付けられないほど記憶が現実味を帯びてくるのです。
「架空の記憶」がどうして「現実の記憶」らしいのか、ラストまでにトリックが明かされます。千尋と灯花が最後に選んだ結末に涙が止まりませんでした。
『三日間の幸福』
初期の作品で、『君の話』よりもSFの設定がシンプルで読みやすかったです。アマチュア時代にネットに掲載されたときのタイトルは「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」で、寿命をお金に変えられる世界のお話です。
主人公・クスノキの寿命の査定価格は、1年につき1万円。つまり、「人生に価値はない」と査定されました。
3ヶ月を残して寿命の大半を売り払ったクスノキは、「監視員」のミヤギという女性と出逢います。監視員は、寿命の多くを売り払った人が自暴自棄になって問題を起こさないよう、監視する存在です。ミヤギの人生も同様に、「価値が低い」とされるものでした。
一緒に過ごすうちに、互いに必要な存在になっていくクスノキとミヤギ。ミヤギを楽しませることがクスノキの生きがいになるも、ミヤギが抱えるある問題を知る頃には、クスノキの寿命は残り2ヶ月で解決は難しく……。「寿命をお金に変えられる世界」だからこその、ロマンティックで泣ける結末でした。
本作は「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」というタイトルでコミカライズされています。
『スターティング・オーヴァー』
三秋さんのデビュー作で、アマチュア時代に発表した「十年巻き戻って、十歳からやり直した感想」が元となっています。10歳のクリスマスに戻って人生をやり直せることになったものの、やり直したいことがひとつも思いつきませんでした。そこで、主人公は1周目の人生をそのまま再現することに。
しかし、物事は少しずつずれていき、幸せだった1周目のツケを払わされるように、2周目の人生では落ちぶれていきます。そして、1周目の自分のポジションを忠実に再現する「代役」と出会い……。
「人生をやり直せる」なら、1周目より幸せになりたいと思う人が多いのではないでしょうか。そんななか、「1周目を再現したらどうか?」と考える微妙な閉塞感が、三秋さんらしいなあと感じます。
『恋する寄生虫』
林遣都さん、小松菜奈さんのW主演で映画化もされたお話です。失業中の青年・高坂賢吾と不登校の少女・佐薙ひじりが、リハビリを行うなかで惹かれ合い、恋をするお話。
しかし、「惹かれ合う」という現象が、ふたりの体内にいる寄生虫が宿主を引き合わせようとしたためであったら……。ちょっとグロテスクかもしれませんが、恋愛という人間の不思議な習性を突き詰めて考えなければ、誕生しない物語ではないかと思います。
本作も同じタイトルでコミカライズされています。
『あおぞらとくもりぞら』
アマチュア時代にネットで公表した『人を自殺させるだけの簡単なお仕事です』のコミカライズ版です。loundrawさんが作画を務めた漫画で、小説ではないですが、三秋さんの作品のひとつとして紹介します。
本作は、人を操って自殺させる「掃除人」のお話。本人の意思ではなく、外部の人間が操るため他殺ですが、それとはわからないよう自殺に見せかけます。
主人公の男性は、ある日、突然に人を操る能力を得て、自分に与えられた殺人という使命を理解します。抵抗なく数人を殺害したようですが、ある高校生の少女はすぐには殺害せず、泳がせることに。
少女は無気力で、死ぬことに抵抗がありませんでした。主人公は、少女に生きがいを見つけさせ、自分に命乞いをするように仕向けてから殺害しようとします(文章にすると酷いけど漫画だとスラスラ読めます……)。
最初は、嫌がらせをする主人公と、なかなか生きたいという感情が芽生えない少女という奇妙な関係だったのが、ふたりで過ごすうちに少しずつ変化していきます。しかし「掃除人」の寿命には秘密があり、ふたりにはあまり時間が無いことがわかって……。
表情に乏しいキャラクターたちですが、loundrawさんの素晴らしい描写力により、彼らの感情が変化した瞬間が鮮やかに見える漫画作品です。三秋さん作品特有の透明感と絶望感も味わえるので、漫画がお好きな方におすすめしたいです。
絶望とロマンティックを同時に描く三秋縋さん
三秋さんの作品には、無気力で人生にやる気がないキャラクターが登場します。しかし物語を通して考え方が変わり、ラストまでに最後にして最大の選択を迫られるので、意外かつロマンティックな結末にいつも驚かされます。
ただ悲しいだけでもなく、楽しいだけでもない、喜怒哀楽のいずれにも当てはまらないようなストーリーは、三秋さんにしか描けないだろうなと感じます。最新作『君の話』も大好きですし、これからの作品も楽しみです!