旅・グルメ

【Webで旅気分】ファッションとデザインの街ミラノでルネサンスの巨匠に出逢うーレオナルド・ダ・ヴィンチが20年暮らした街ミラノ

長引くコロナ禍の中、自由に海外へと旅行へ出かけることができなくなって早くも約2年が経過しました。

そこで、少しでも旅行気分を読者の方に味わっていただきたい……と思い、楽活では橋本菜摘さんにアートと歴史を絡めたヨーロッパ旅行の思い出を【Webで旅気分】シリーズとして書いていただいています。

これまで、プラハドレスデンヴェネツィアと合計3本の記事を楽しんでいただきましたが、今回、第4弾ではイタリア屈指の文化都市・ミラノを特集。あの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチが活躍したルネサンス時代の空気をたっぷりと味わえる記事に仕上がっています!

それでは、見ていきましょう!

ミラノのシンボル、壮麗なる大聖堂「ドゥオーモ」

左はガッレリア、中央はドゥオーモ、右の黒い柵は地下鉄「ドゥオーモ駅」の出入口

北イアリアのミラノはヨーロッパの東西を結ぶ位置にあります。14世紀にミラノ公国として繁栄し、ルネサンス文化の発展につながりました。

地下鉄「ドゥオーモ駅」から上がると、多くの人が集う「ドゥオーモ広場」です。「ドゥオーモ」が聳え、右側には華麗な王宮とドゥオーモ博物館があり、左側の「ガッレリア」を抜けると、歌劇場スカラ座、ルネサンスの作品を多数所蔵する「ブレラ絵画館」や15~19世紀の絵画、工芸品などを展示する「ポルディ・ペルウオーリ美術館」もあります。

青銅の扉には聖書の物語が刻まれている

「ドゥオーモ」はイタリア語で大聖堂のこと。「神が宿る家」という意味もあります。ドゥオーモはミラノの象徴でもあります。

奥行き158メートル、幅93メートル、1386年に着工し、500年の年月をかけて19世紀に完成しました。聖堂内は薄暗くひんやりとして聖なる場所であることを体感しました。天井まで伸びる太い柱、壁や柱の彫刻、光を呼び込むステンドグラス、床のモザイクも見事です。

中央の青銅扉には、キリスト生誕から磔刑までが浮彫りで表わされています。人々が愛情を込めて撫でたところが光って見えます。

左の108mの尖塔にはミラノを護る黄金色の「マドンニーナ」像

ドゥオーモでは屋根に上がり、ミラノを眺望し、135本の尖塔、2245体の彫像を間近で見ることができます。地下には古い洗礼堂の遺跡、宝物庫があります。

ドゥーモ建設の大理石を運ぶため、スイスとの国境にあるマッジョーレ湖からミラノ中心部まで運河を造りました。運河の建設にはレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)も関わっていたと言われています。運河の多くは埋められましたが、運河が残るナヴィリオ地区は観光客にも人気のスポットになっています。

イタリア国王の名を冠する優美なガッレリア

エマヌエーレ2世騎馬像、右の門はガッレリアの入口

ドゥオーモ広場の中央には、1861年にイタリアを統一し、初代国王となったエマヌエーレ2世(1820~78年)の騎馬像は、1896年に彫刻家エルコーレ・ローザ制作。オーストリアとの戦闘場面で、台座にも浮彫りがあります。イタリアは第二次世界大戦後の1946年に国民投票で王政廃止となり、共和国になりました。

ガッレリア中央の天井

初代イタリア国王の名にちなんだ「エマヌエーレ2世のガッレリア」は屋根のある商店街(アーケード)で、二つの通路が中央で交差しています。1865~77年に建設、石造りの伝統工法と近代の鉄骨を組み合せて、建築家メンゴーニが設計した傑作です。ショッピングモールの先駆けとしても知られ、著名なファッションブランドや老舗のレストランやバール、書店、宝石店などが並んでいます。

半円部分にフレスコ画

天井付近のフレスコ画はそれぞれヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカの4大陸を表し、ガッレリア中心ではコンサートや、デザインの展示などいろいろなイベントが行われています。

牛のモザイクに幸運を願う

床にはイタリア王国の紋章、それを囲むようにミラノ、ローマ、フィレンツェ、トリノを示すモザイク画があります。牛が描かれたトリノのモザイク画のくぼみを踵で1回転すると幸せになれると言われ、多くの人が順番を待っていました。

ガッレリアの反対側にはスカラ広場があり、通りの先にはダ・ヴィンチの像が見えています。

スカラ広場に弟子を従えたダ・ヴィンチ像 

記念碑のまわりは季節を感じる憩いの場

スカラ広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチの記念碑がスカラ座と向かい合って立っています。ダ・ヴィンチの才能やミラノに関わった業績を記念するもので、1872年にミラノ出身の彫刻家ピエトロ・マグニが制作しました。ダ・ヴィンチ像の柱には彼が関わった運河工事、建築、絵画などの仕事をする姿が浮彫りになり、柱の四方を等身大の4人の弟子像が囲んでいます。

スカラ座

18世紀に建てられた「スカラ座」は、世界で最も有名なオペラ劇場の一つです。ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニなど偉大なイタリアの作曲家がオペラの初演を行い、イタリアオペラ最高の舞台といわれています。

建物内部も豪華で見学ツアーも開催されています。博物館では楽器や音楽家の衣装、絵画、彫像などが並び、音楽の伝統をずっしりと感じることができます。

ルネサンス巨匠作品が並ぶアンブロジアーナ絵画館

入口には400年記念の垂れ幕がかかる(2010年撮影)

アンブロジアーナ絵画館は、スカラ広場、ドゥオーモ広場からも歩いて数分の距離にあります。規模は大きくありませんが、建物自体も魅力的です。大理石の床や柱、壁にはフレスコ画やモザイク画、ステンドグラス、中庭には世界の著名な文学者と哲学者のブロンズ像並んでいます。

写真中の「BIBLIOTHECA」とはラテン語、ギリシャ語で図書館を表す

ミラノ大司教ボッロメオのコレクションを元に1609年に世界最初の公共図書館として開館、1618年には絵画館も完成しました。「アンブロジアーナ」はミラノの守護聖人・聖アンブロシウスに因んだ名前です。日本語の音声ガイドもあり、ていねいな解説を聞くことができます。

図書室は天井まで書棚に囲まれ、ダ・ヴィンチが残したスケッチやメモを編纂した『アトランティコ手稿』のうち1118枚を所蔵し、10数枚が1枚ずつ額装して展示してあります。紙のサイズがアトラス(地図帳)と同じ判型だったので、「アトランティコ」と呼ばれるようになりました。

カタログ(左)と「アトランティコ手稿」第888紙葉表(1482~83年)の絵はがき

カタログの表紙はダ・ヴィンチの油彩画「音楽家の肖像」(1485年頃)、右の「アトランティコ手稿」には、ダ・ヴィンチがフィレンツェからミラノに携えてきた作品リストが含まれています。

この2点を含むアンブロジアーナ絵画館の油彩画、素描などが、2013年に東京都美術館で開催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像」展で来日したので、ご覧になった方も多いことでしょう。

左:ヤン・ブリューゲル1世(1568~1625年)「花瓶の花」 右:カラヴァッジョ(1571~1610年)「果物籠」

上記の絵はがきの他にボッチィチェッリ(1445~1510年)の「天蓋の聖母子」などの傑作が展示されています。 ラファエロ(1483~1520年)が描いたシスティーナ礼拝堂「アテナイの学堂」の原寸大下絵の大きさ(縦285cm、横804cm)にも驚きました。

スフォルツェスコ城にミケランジェロの遺作

高さ109mのフィラレーテの塔(右)にはミラノの守護聖人・聖アンブロジウスの石像も

ドゥオーモの西側にあるダンテ通りをまっすぐ進むと、徒歩15分ほどで噴水の向こう側に「スフォルツェスコ城」が見えてきます。ルネサンス建築の最も壮麗な建築物の一つで、1450~66年にフランチェスコ・スフォルツァがヴィスコンティ家の城跡に建立しました。正門に聳えるフィラレーテの塔の左右から後ろまで、ぐるりと城壁が囲んでいます。

中庭には優美なアーチ

城壁の内側には複数の博物館があります。地元ロンバルディア地方の彫刻や織物をはじめ、古代美術や絵画、歴史的な資料などが展示されています。おすすめは音楽楽器博物館で有名工房のバイオリン。絵画が描かれたバージナルなどの貴重な楽器が多数並んでいます。

19世紀末に発見されたダ・ヴィンチの天井画(1498年頃)は、幹に葉が絡まるように描かれています。

ミケランジェロ「ロンダリニーニのピエタ像」 ウィキペディアより

展示の最後には、弧を描く石の壁に囲まれて、ミケランジェロ(1475~1564年)の遺作となった彫刻「ロンダリニーニのピエタ像」が静かに佇んでいました。マリアがキリストを後ろから抱えるポーズで抽象彫刻のような印象を受けました。作品名にはローマのロンダニーニ家邸宅に置かれた記憶が残されています。「ピエタ」とはイタリア語で「哀れみ、慈悲」を意味し、磔刑で亡くなったキリストを抱えて嘆き悲しむ聖母マリアの姿です。 

ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」は修道院の食堂を飾る

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会のドミニコ派修道院
レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」(1495~97年) ウィキペディアより

「最後の晩餐」はダ・ヴィンチがミラノ当主ルドヴィコ・スフォルツァの依頼で描いた世界で最も有名な壁画作品。15世紀に造られたサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会のドミニコ派修道院の食堂の壁に描かれ、縦4.6m、横8.8mの大作です。

壁画にはフレスコ技法が用いられますが、時間をかけて描くダ・ヴィンチはテンペラと油彩を混ぜて描いたため、食堂の湿り気もあって制作直後から痛み始めました。第二次世界大戦時には壁画から数メートル先に爆弾が落ちて建物がくずれたことも損傷をひろげました。

幾度もの修復が繰り返され、1999年に終了した最終的な修復事業によって本来の色調が回復し、テーブルの上の料理などもわかるようになりました。実際に見ると全体に淡い色彩です。反対側の壁には、同じ大きさのモントルファノによるフレスコ画「十字架刑」(1945年)があり、色が濃く、細かい描写までがよくわかりました。

食堂内は作品保護を目的とする特別な空気処理を行うための15分、見学15分を人数制限の予約制で行っていました。旅程が決まったら、まずは予約をしましょう。場所はスフォルツェスコ城の西、正門からは歩いて10分ほどです。

華麗な構内、威厳ある外観のミラノ中央駅

ミラノ中央駅は正面の幅は約200m、高さは72m

大理石造りの「ミラノ中央駅」は1925~31年にかけて建設されたファシズム時代の典型的なもので、イタリアで最大級の大きさ、1日の乗降客数は1日40万人(2019年現在)とローマ・テルミニ駅に次いでイタリアで2番目です。大都市を結ぶユーロスターが発着し、国際ステーションとしても機能しています。

天井のガラスから自然光が差し込む

構内に入ると宮廷のような豪華さに驚きます。天井や壁には彫刻が施され、床に敷き詰められたモザイクも鮮やかです。旅行用品、土産物、服、食品などショップも揃い、駅の機能も充実しています。

駅には第二次世界大戦時の記憶が残っています。ユダヤ人を収容所に送り出し、ソフィア・ローレン主演映画『ひまわり』の舞台にもなりました。1970年公開の『ひまわり』は2020年にHDレストア版(修復版)として上映され、記憶を新たにしました。

駅構内に入るには切符は不要なので、ぜひミラノ中央駅にも寄ってみてください。

レオナルド・ダ・ヴィンチのミラノ時代

ガッレリアからダ・ヴィンチ像を望む

ドゥオーモ広場からガッレリアをまっすぐに進むと、スカラ広場のダ・ヴィンチ像がアーチのなかに見えました。

ダ・ヴィンチは1452年にフィレンツェ郊外で生まれ、1482年(30歳)で軍事技師として自らを売り込み、ミラノ公国のルドヴィコ・スフォルツァに仕えました。1499年にフランス軍にミラノを占領されてフィレンツェに戻り、晩年はフランス王に招かれて過ごし67歳で亡くなりました。

ダ・ヴィンチは建築・機械工学などにも精通し、その研究メモを「アトランティコ手稿」にも書き込みました。手稿に基づいた研究からつくられた模型などをサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に近い「レオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館」で見ることができます。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、ミラノで宮廷イベント、水路工事にもかかわり、名画を描き、20年を暮らしたのです。500年前に想いを馳せて歩いてみてください。

ミラノ地図:紹介した主な場所

※撮影はすべて2010年6月のものです。(ウィキペディア以外)

関連情報

ロンバルディア州:ミラノ イタリア政府観光局公式サイト
https://visitaly.jp/region/lombardia-milano/

関連記事・楽活「Webで旅気分」シリーズ

楽活では、長らくコロナ禍によって海外旅行に行きたくてもなかなか行くことができない、という方のために、海外の風光明媚な街の風景に詳しいライター・橋本菜摘さんが「Webで旅気分」と題した旅案内記事を連載。ヨーロッパ各国で、有名な景観や史跡で名高い観光都市を取り上げ、たっぷりの写真つきで解説しています。

今回取り上げたミラノ以外にも、様々な旅紀行をご紹介しています。ぜひ、あわせて楽しんでみてくださいね。

橋本菜摘

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橋本 菜摘 
美術大好きのアートブロガーです。美術館でボランティアをして多くの仲間と作品に出会いました。面白いものがあったら誰かに話したい、美術作品と出会うきっかけづくりをしたいと思っています。
ブログ「アート ハミングバード」には展覧会で見たこと、考えたことを載せています。
http://hummingbird331.blog.fc2.com/
Instagram:okiron2017

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