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ヒントは地下アイドルにあり? インディーズ画家・福井安紀の「絵で食べていく」秘訣とは!【作家インタビュー】

画家・絵師の福井 安紀(ふくいさだのり)さんは大学生の頃から一貫して、土や石を日本画の泥絵具や岩絵具の手法で自家製の絵の具にし、板に描いていく技法で絵を描き続けてきました。

実は福井さんは私の京都教育大学時代の1年先輩で、構成(デザイン)研究室に所属されていました。ちなみに私は西洋画研究室でした。

廊下で絵を描いている福井さんの姿を見ては「日本画を専攻にすれば描く場所があるのになぜ構成を選択したのだろう……変わった人だなあ」と思っていました。

その福井さんが、このたび『職業は専業画家』という本を、誠文堂新光社から出されました。

https://www.seibundo-shinkosha.net/book/art/63646/

2018年に福岡で偶然再会して、その際福井さんが絵一本で食べているということは聞いていたのですが、のちにそれについて『職業は専業画家: 無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法』というタイトルで本を出版されたと知って驚きました。

購入して読んでみると、福井さんの活動を通じて「画家として食べていく方法」ことに特化して書かれた本でした。

なぜこの本を出されたのかについて、興味がわきましたので調べていると、ちょうど福井さんが京都市内で個展をされるということでした。そこで、会場のアートギャラリー北野さんに足を運んでお話をうかがってきました。

1Fが緑色の建物がアートギャラリー北野さん。大きな通りの交差点に面した、本の中で「路面」と呼ばれるギャラリーの典型。

――さて、なぜこの本を書こうと思われたのでしょうか。

福井安紀さん(以下、「福井」と表記):まずこのプリントを見てください。(ピラミッドのような図によって、地下アイドルと画家を比べた手書きのプリントを渡される)こういう、手書きをしたプリントで「話す会」で話をしたわけですよ。

――本を出す前に蓄積はあったということですか?

福井:4年前から「話す会」と言うのはやってたけど、はじめは展示の仕方から話したけど、次第に根本的なスタンスということについて話をしたんですよ。京都とか、東京とか、福岡とか、名古屋とか、ところどころで話をしました。

個展をする際は、作品の配置も重要なポイント。

――あらためて、なぜそれを本にまとめようと思われたのでしょうか。

福井:本の骨子は2017年にすでにありました。色々な方とのご縁があって、本という形で誠文堂新光社さんから出すことになりました。書くようになったきっかけは、42歳の時、周りの画家と交流を持とうとしたときに、作家さんたちが皆、絵で生活していないことに驚いたことです。

華やかな活動をしている人が他に仕事を持っている。なぜ生活が出来ていないか?

福井:生活が出来ていないと言うのが自分にとってはショックな出来事で、なぜ生活が出来ていないのかということを自分なりに考えたわけです。数年経って、活動の仕方に問題があるんだ、ということに気がついたんです。それで、さっき見てもらったような資料を作って、どういうふうに自分が考えているのかを伝えたんです。

そういうわけで、本の骨子に当たる部分は2017年でもう出来ていました。

描くことで生活していなければ、もう何も通じないというか。(絵で生活するのは)無理じゃないということからスタートして。自分が話したり書いたりすれば、他の(画家の)人も話をするのではないかと思って書きました。

――大学での専攻と今の活動はつながってくるのでしょうか。

福井:私が構成を専攻していたのは、自分がデザイナーだと思っていたから。日本画の技法で描くのも、私の中ではデザインなんです。だから、楽しんでもらうことがすべてなんですよ。土と石の美しさをわかってもらえさえすれば、それでいい。

自家製の絵の具の素材、土と石が並ぶ

――本で手の内を晒してまで、専業画家を増やしたい理由は何でしょうか。

福井:自分の活動を進化させるためです。一人だけでは進化のスピードは遅いので、同じ立場のライバルを作りたいからです。

――本の中でも触れられている、画家が目指す「美」とは端的に言うと何でしょうか。

福井:自分の中で、美とは「摂理」だと思っています。それは世の中全体の見えないルールです。それを見える化してくれるのが「美」なんです。

専業作家として成功する秘訣とは

さて、せっかくインタビューに伺ったので、著書『職業は専業画家』で詳しく書かれている、美術作家・アーティストとして自立して生活していくためのコツや心構えについて福井さんにお伺いしてみました。

―― なぜ専業画家になることが望ましいのでしょうか?

福井:それが日本の文化にとって理想だと思うからです。今の私たちが美術や工芸といった分野で日本文化を豊かに感じながら生活できているのは、先人たちが高水準の美を作り上げてくれたからだと考えています。たとえば、ここ京都を例にとってみると、江戸時代に活躍した伊藤若冲、円山応挙、池大雅といった絵師たちは、みな専業で絵を描いていました。別の仕事をやりながら、残りの時間で絵を描いていたわけではないんです。彼らはまさに人生をかけて美について努力していたんです。

もちろん時代は昔とは違うとは思うけれど、今に生きる私たちだって、豊かな日本文化を後世の世代に伝えていくためにも、全力で芸術活動に専念できることを目指すことが大切だとおもいます。

―― でも、実際に専業で食べていくとなると、相当の覚悟がいりますよね。福井さんはどうやって絵画だけで食べていけるようになったのですか?

福井:30歳まではサラリーマンをやりながら、独立後に向けての生活設計を固めていきました。固定費を見直して無駄な生活費を切り詰め、たとえ絵が売れなくても、無収入でも生活していける時間を捻出できるように知恵を絞り、努力をしました。

―― というと?

福井:結局、その期間が、制作に打ちみ、専業で活動できるためのトライできる時間となるからです。

―― なるほど、支出をまず見直していったのですね。一方で、収入はどのように得ていったのですか?

福井:基本的には個展での売上です。通りすがりの人が気軽に入ることができる商店街の中にあるギャラリーで個展できたことが、売上につながりました。個展を重ねていくうちに、私の活動に強く共感してくださる「自分に特別なお客さん」を見つけだすことを重視するようになりました。

また、目標平均価格を設定して年間の利益金額をシミュレーションしたり、大都市以外でも個展をして、作品発表の回数を増やすようにしました。さらに後には、ふすま1枚を江戸時代と同様に手頃な価格で素早く描くというコンセプトで、「ふすま絵プロジェクト」という注文制作の仕組みも立ち上げました。

―― そうして、少しずつ個展を積み重ねて固定客をつかんでいったのですね。ところで、書籍の中では、「自分の特別なお客さん」、つまりリピーター客を30人得ることを目標にすると良い、と書いてありました。

福井:自分の経験では、「自分の特別なお客さん」が30名になったときに、絵で生活できるようになった実感があるから、この数字なんです。名前を売って、いろんな 関係者のサポートを得ながらメジャーになる道を目指すよりも、自分ひとりで活動を完結できる自営業な活動を目指しました。ある深夜番組で「地下アイドル」とも共通点が多いと思いました。

―― 地下アイドルですか?!

福井:そうです。数年前に深夜番組で特集されていた売れっ子地下アイドルの特集で、「似ているなぁ」と思いました。その番組の売れっ子地下アイドルは、ステージを借りて、チケットを売って、ライブを行って、関連商品を物販して……という活動を全部自分ひとりでやっていたんです。これって、自分で絵を描いて、画廊を借 りて自分で作品を並べて販売する自分のような絵描きと共通点があるなと。要するに、「売れっ子地下絵描き」になればいいんじゃないかと思ったんですね。

―― なるほど!その「売れっ子地下絵描き」になるためのノウハウが、『職業は専業画家』の中で全部明かされているということなのですね。

福井:絵描きとして専業で活動を継続するためのノウハウや心構え、これまでの私自身の経験をほぼ全部詰め込みました。また、アーティスト以外の方でも、一人の画家がどのようにして活動を展開、拡大させていったのかを、楽しんで頂ける内容になっていると思います。

――最後に、「楽活」をお読みの方にメッセージをお願いします。

福井:誰だって本当のプロにはなれる。既成概念で、あきらめないでほしいです。

――今日はどうもありがとうございました。

絵で食べていきたい、となった時、ギャラリーと契約するとか、アーティスト・イン・レジデンスを渡り歩くとか、そういう人たちを私は見てきましたが、それとは全く別のやり方の一つとして、『職業は専業画家』は参考にする価値があると思います。また、絵以外でも、新しく事業を始められる方のヒントになるかもしれません。

最後に福井さんの著書『職業は専業画家』の内容の紹介をします。

●なぜ専業画家になることが望ましいか
●食べていけるトップの地下アイドルに学ぶーー食べていける「地下絵描き」に
●「自分のお客さん」を30人作ることで金銭的にやっていける!――そのための具体的な方法も
●襖絵などの仕事の取り方や作品の値段の付け方は?
●どんな画廊で個展をするといいか
●個展での接客方法――「ラップ1枚」で自分をさらけ出す
●人生設計(福井さんは妻子持ちで専業画家に)
●貧しい時こそ皿にこだわる、といった体験的こぼれ話も収録

と、徹底的に実体験に基づいた具体的なノウハウ・方法が満載です。

なお、インタビュー冒頭のプリントは本に収録されているのとほぼ同じです。興味のある方はぜひ「職業は専業画家」をお読みください。

個展会場の隅で描く福井さん。

福井 安紀さんのプロフィール詳細

画家。1970年京都府生まれ。サラリーマンを経たのち、30歳から絵だけで生活する道へ。2013年、42歳で高砂神社能舞台の鏡板の松を制作する機会をいただく。45歳のときに、江戸時代の絵師にあこがれ、安価に、すばやくふすま絵を描く「ふすま絵プロジェクト」を立ち上げる。各地の住宅、店舗、ホテル、寺院などでふすま絵、壁画、天井画などさまざまな種類の絵を描き続けている。また、2020年には全国で年間13回の個展も行うなど、画家活動の限界に挑んでいる。

襖絵プロジェクト
https://fusumae.gallery-kitano.com

アートギャラリー北野
https://www.gallery-kitano.com/rental.aspx

著作『職業は専業作家』(Amazon外部リンク)
https://www.amazon.co.jp/dp/4416521278

堀 博美

投稿者の記事一覧

神戸出身、京都在住のフリーライター。専門はきのこ。きのこライターとしての主な仕事に、書籍「きのこる キノコLOVE 111」(山と渓谷社)「ときめくきのこ図鑑」(山と渓谷社)「ベニテングタケの話」(山と渓谷社)「珍菌」(光文社)「毒きのこに生まれてきたあたしのこと。」(天夢人)などがある。WEBや雑誌、新聞などにも執筆経験あり。

一方で、長年現代アートに携わり、現在も制作活動を続けている。
きのことアートはライフワーク。その他、珍しいお菓子、京都街歩き、同人誌イベント、音楽鑑賞(米良美一さん推し)などに興味がある。

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