【Webで旅気分】街全体が世界遺産!オンラインで楽しむヴェネツィアの名所旧跡巡り

イタリア北部のヴェネト州のヴェネツィアは、地中海のイタリア半島とバルカン半島に挟まれた「アドリア海」にあります。5世紀頃、湿地に丸太を打ち込んで築いた118の小島からなり、400もの橋が島々をつないでいます。

10世紀以降は海運国家として栄え、「アドリア海の女王」「アドリア海の真珠」と呼ばれました。歴史ある建築やヴェネツィア派の絵画、現代美術もあり、街全体と干潟すべてが1987年にユネスコ世界遺産として登録されています。

ドゥ・カーレ宮殿の布告門に有翼のライオンと元首ファスカリ像

ヴェネツィアの繁栄の源のひとつは9世紀にエジプトから福音書記者サン・マルコの遺骨がもたらされたことです。それ以来、サン・マルコはヴェネツィアの守護聖人になりました。世界各地から巡礼者や商人を引き寄せ、連れているライオンがシンボルになり、街のいたるところでその姿を見ることができます。

ヴェネツィアをイタリア本土と繋ぐスカルツィ橋

スカルツィ橋からサンタ・ルチア駅(右端)の西側を望む

ヴェネチィアの中心・本島はイタリア本土と鉄道でつながり、「サンタ・ルチア駅」が旅の始まりです。駅前には、船が行き交う大運河「カナル・グランデ」が広がっています。

カナル・グランデは本島を二つに分けるように南東の「サン・マルコ広場」までおよそ3800mにわたってS字型に流れ、両岸にはさまざまな時代の建物がつぎつぎに現れます。石畳みの路、アーチ型の階段を歩くと、水面が光って美しい風景画を見るようです。

サンタ・ルチア駅のほぼ正面の「スカルツィ橋」は1858年に創建され、1932年に現在の形になりました。駅の西には2008年に完成した近代的な「コスティトゥツィオーネ橋」がバスターミナルもある「ローマ広場」とつながっています。

ヴェネツィアでは自動車などの乗り入れが禁止されているため、移動には水上バスのヴァポレット(水上バス)、水上タクシー、ゴンドラなどの船を利用します。

駅に並ぶ壮麗なサンタ・マリア・ナザレ聖堂

サンタ・ルチア駅のすぐ隣には、「サンタ・マリア・ナザレ聖堂」があります。1654年に建設され、正面や聖堂内には装飾的な彫刻で埋め尽くされています。典型的なバロック様式です。天井には18世紀の巨匠ティエポロ(1696~1770年)が描いたフレスコ画が華やかです。

聖堂の正面の乗場「フェックローヴィア」からヴァポレットに乗って、サン・マルコ広場まではおよそ30~40分です。

大富豪の館カ・ペーザロ美術館(東岸) 

「カ・ペーザロ美術館」は大富豪の館として1710年に完成した壮麗なバロック建築。ヴェネツィア出身の画家たちのフレスコ画が内装を彩ります。

1902年から近代美術館・東洋美術館となり、ミロやマチス、現代イタリア作家作品、日本や中国の古美術を展示しています。正面のあちこちに動物の顔、さまざまなポーズの天使たちの姿があります。

宝石箱のようなサンタ・マリア・ディ・ミラーコリ聖堂(東岸)

カナル・グランデから少し離れますが、ぜひ紹介したいのはリアルト橋の東にある「サンタ・マリア・ディ・ミラーコリ聖堂」です。

赤や緑の色大理石を用いた寄木細工のような姿から、「ヴェネツィアの宝石箱」ともいわれています正面に半円や付け柱がある15世紀の初期ルネッサンス様式、堂内は簡素なつくりですが、色大理石が華やぎ、かまぼこ形の天井には金箔の枠に聖書の物語が描かれています。

聖堂の正面から右に沿って行くと、同じ聖堂のドーム型の屋根が見え、広場があります。

小路のいたるところにこのような広場があって、住民の憩いの場、旅人の休憩の場にもなっています。通りの名前はプレートになって、貼ってありますから、地図を頼りに小路も歩いてみましょう。

橋の上も賑やかなリアルト橋

サンタ・ルチア駅からサン・マルコ広場までの中間点、このあたりは、海抜が高く水害が少ないことから、人々が集まり商業が発展しました。「リアルト橋」はカナル・グランデで最も有名な橋です。12世紀末に木製の跳ね橋として造られ、16世紀に石造りになりました。

左(東岸)は13世紀に貿易拠点として建てられた「ドイツ人商館」、かつてはフレスコ画が壁を飾っていました。2016年にショッピングスポットにリニューアルしました。

橋の上には、両サイドに宝石店や土産物店などが並び、運河沿いには多くのレストランがあります。夜は昼間と違って幻想的な雰囲気です。

邸宅が現代美術館に、パラッツォ・グラッシ(東岸)

「パラッツォ・グラッシ」は18世紀に完成したグラッシ家の邸宅、2006年に建築家安藤忠雄が設計し現代美術館として開館しました。

中庭をぐるりと囲む展示室にゆったりと作品が展示されています。豪華な天井や壁のフレスコ画も残され、邸宅の雰囲気が感じられます。車や大きな椅子のオブジェは作品、右隣はヴァポレットの「サン・サミュエル駅」

ヴェネツィア絵画500年、アカデミア美術館(西岸)

アカデミア美術館への案内板にジョルジョーネ「嵐」(1507~10年)のポスター

19世紀に架けられた「アカデミア橋」(1986年に改築)は、木造に見えますが、金属でできています。近くのアカデミア美術館は1750年にティエポロが創立した美術学校が19世紀に美術館として独立しました。豊かな色彩表現や光が溶け込むようなやさしい表現が特徴のヴェネツィア派絵画500年の歴史をたどることができます。

アカデミア橋から望む、右端のドームはサンタ・マリア・サルーテ聖堂

アカデミア橋の対岸の左端の建物は、1565年に建てられたネオゴシック様式の「パラッツォ・フランケッティ」、現在はヴェネト科学文学芸術研究所になっています。

水辺のテラスで憩う、ペギー・グッゲンハイム・コレクション(西岸)

ペギー・グッゲンハイム(1898~1979年)が交流をもったピカソやポロック、モンドリアン、エルンストらの20世紀前半の作品を収集し、美術館として公開しました。建物は18世紀の邸宅パラッツォ・ヴェニエル・ディ・レオーニを改装。緑溢れる庭や、カナル・グランデに面したテラスがあります。

健康を祝うサンタ・マリア・デラ・サルーテ聖堂(西岸)

大流行したペストの沈静化を祝って1687年に完成したバロック様式の聖堂で、サルーテ(健康)と名付けられました。八角形の聖堂に6つの礼拝堂があり、ドームの周りに多くの彫像が立ち、正面の大扉の左右には4人の福音書記者像が納められています。

ティツィアーノ「聖霊の降下」(1545~1546年)

堂内ではヴェネツィア派のティツィアーノ (1490~1576年)やティントレット(1519~94)の作品も見ることができます。

「聖霊の降下」は聖霊が下りて、人々の頭の上に「火の舌」がとどまった場面です。頭の上に炎のようなものが描かれ、降り注ぐ光があたりをやさしく照らしています。絵の左右には柱があり、奥まった場所のようですが、平面に描かれています。

対岸にサン・マルコ広場の鐘楼が見える
カナレット「ヴェネツィアのサンタ・マリア・サルーテ聖堂とリヴァ・デッリ・スキアヴォーニ通り」1730年 ミュンヘン、アルテピナコテカ

ヴェネツィア生まれのカナレット(1697~1768年)は多くの写実的な風景画を描き、彼の作品は貴族の子息が教養を身に付けるための長期旅行「グランド・ツアー」の土産品として好まれました。サン・マルコ広場を遠望する風景が、300年前とほとんど変わらないことに驚きます。タイトルは描かれている聖堂とサン・マルコ広場から東に伸びるカナル・グランデ沿いの通り名です。

海の税関が現代美術館に、ブンタ・デッラ・ドカーナ(西岸)

湾に突き出た三角形の土地をなぞるように先が細くなる建物は、17世紀に建てられた「海の税関」。前掲のパラツィオ・グラッシと同様に安藤忠雄が設計して2009年に現代美術館として開館しました。レンガの壁と床、天井に木の梁を活かした広い空間は現代美術に歴史の重みを加えています。

屋根の上にある風向計は17世紀の彫刻、ギリシャ神話の神アトラス像が背中で球を支え、幸運の像が風向きと運勢を示しています。

ここから南側をブンタ・デッラ・ドカーナに沿って行くと、塩の倉庫を改築した「エミリオ&アンナビアンカ・ヴェドヴァ財団」の美術館があります。2009年オープンで、ヴェネツィア出身の画家エミリオ ・ヴェドヴァ(~2006年)のアトリエを美術館にしたもの。

海からの玄関口、サン・マルコ広場

左から:鐘楼、ドームが列なるサン・マルコ聖堂、白壁のマルチャーナ図書館、薄いオレンジ色のドゥ・カーレ宮殿

やっとサン・マルコ広場に到着しました。ここがヴェネツィアの中心です。鉄道がつながる以前には、海からの表玄関でした。ひときわ目につく鐘楼は16世紀に完成し、1912年に再建されました。高さ98.6mのレンガ造りの内部には、エレベーターも完備。ぜひ、上がって絶景を見渡しましょう。

ドゥ・カーレ宮殿の壁は色の違う大理石を積んで模様をつくり、細い柱には繊細な彫刻が施されて重量感がある建物を軽やかに見せています。高さ15mの2本の柱が門のように迎えてくれます。写真は柱の上に有翼のライオン像、この右の柱、写真には写っていませんが、旧い守護聖人のテオドロ像があります。

内部の大評議会室の壁には横22mのティントレット「天国」、天井には長径9m楕円にヴェロネーゼ(1528~1588年)「ヴェネツィアの栄光」があり、多くの人物が描かれた迫力ある絵画に驚かされました。

サン・マルコ聖堂の入口の上に積み重なるアーチ
アーチの奥にサン・マルコの遺骨が到着した場面のモザイク画

サン・マルコ聖堂は9世紀にサン・マルコの遺骨を安置するために木造でつくられ、現在の建物は11世紀に建てたビザンティン様式の石造、大ドームを囲む4つの小ドームが特徴です。その後ゴシック、ロマネスクなどの要素が加えられました。堂内は壁から天井までがビザンティン風の黄金色のモザイク画で満たされ、聖書の物語が描かれています。

モネが描く、ヴェネツィアの黄金

モネ「黄昏、ヴェネツィア」1908年頃 アーティゾン美術館

サン・マルコ広場の正面に、海から浮かび上がったように見えるのは17世紀の「サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂」です。モネはその聖堂をシルエットで描きました。静養のために訪れた2か月の間に、約30点の作品を制作するほど、ヴェネツィアに夢中になったモネの心情が感じられます。

世界のアート最前線

サン・マルコ広場のさらに東、造船所は1895年から開催されている「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の会場のひとつです。ビエンナーレ(2年毎に開催する意味)は、現代音楽祭(1930年)、映画祭(1932年)、演劇祭(1934年)、さらに建築展(1980年)、コンテンポラリー・ダンス・フェスティバル(1999年)が加わり、6部門の世界のアート最前線に触れる場になっています。

ヴェネツィアでは特別な体験を

サンタ・マリア・デラ・サルーテ聖堂に近い運河

ヴァポレットの旅はいかがでしたか。乗船時間は30~40分、実は、曲がりくねったカナル・グランデよりも直線コースを選ぶと歩くほうが早いくらいです。聖堂や美術館をまわる、ショッピングをする、あてもなく歩く、カフェでのんびりするなど、どんなふうに過ごしてもヴェネツィアでは特別な体験ができることでしょう。

サンタ・マリア・ミラーコリ聖堂で見かけた猫です。ごろんと寝ていたので、日本語で「写真を撮ってもいい?」と声をかけたらポーズをとってくれました。近くにいた男性がおすましした猫を見て大笑いです。

webの地図で確認しながら、訪問した時を思い出し、ヴェネツィアの魅力を再確認しました。

※撮影はすべて2010年6月のものです。

関連情報

ヴェネト州:ヴェネツィア イタリア政府観光局公式サイト
https://visitaly.jp/region/veneto-venezia/

ヴェネツィアとそのラグーン ユネスコ世界遺産センター
http://whc.unesco.org/en/list/394

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楽活では、長らくコロナ禍によって海外旅行に行きたくてもなかなか行くことができない、という方のために、海外の風光明媚な街の風景に詳しいライター・橋本菜摘さんが「Webで旅気分」と題した旅案内記事を連載。ヨーロッパ各国で、有名な景観や史跡で名高い観光都市を取り上げ、たっぷりの写真つきで解説しています。

今回取り上げたヴェネツィア以外にも、様々な旅紀行をご紹介しています。ぜひ、あわせて楽しんでみてくださいね。

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