「おべんとう」
この、優しくて少し照れくさいような言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
子どもの頃の思い出? 毎朝の奮闘? 仕事の合間の休息?
それとも旅先で広げる楽しみのひとつでしょうか。
「弁当」の語源は諸説ありますが、「弁当(辨當)」の字から分かるとおり、「分かち當(あ)てる」という意味があります。「おべんとう」が持つ歴史、可能性、そしてそこから派生するコミュニケーションを多角的に分析し、心躍るような「生きる糧のアート」を展開する、企画展『BENTO おべんとう展 ─食べる・集う・つながるデザイン』が東京都美術館において開催中です。会期は10月8日(祝・月)まで。
作ってもらう人も、作ってあげる人も、この夏は「おべんとう」とじっくり向き合ってみませんか?
「おべんとう展」ってなんだ?
本展は東京都美術館の企画展「アーツ&ライフ」シリーズのひとつとして開催されています。このシリーズは、同館がミッションとして掲げる「アートへの入口」、「生きる糧としてのアート」、「心のゆたかさの拠り所」を通じて、芸術と私たちの身近な生活や社会との関係を考えてみようというものです。
シリーズ3回目となる本展は生きることに不可欠な「食」にスポットを当て、「食とコミュニケーション」をテーマに日本独自の食文化のひとつ「弁当」に注目。江戸時代の弁当箱から現代美術家によるおべんとうをテーマとした作品まで、食べることにまつわるコミュニケーションを見つめます。
最初に、いろんな形のおべんとうや世界中のおべんとうが「食べ放題!?」と思ってしまった、そこのあなた! 残念ですが、美術館なので、それはないです。本当に残念ですが。でも、本展に展示されている弁当にまつわるさまざまなものや、紹介されているおべんとうを見ていると、無性におべんとうが食べたくなったり、おべんとうを作りたくなる、不思議と幸せな気持ちになれる展覧会です。
会場は以下の3つの章で構成。
- おべんとうのいろいろなかたち
- 五感で体感! おべんとう
- おべんとうから考えるコミュニケーション・デザイン
これらの展示のほとんどが参加型の作品となっており、2章以降は写真撮影が可能です。
それでは一体どんな作品があるのか、少しずつご紹介していきましょう。
おべんとうのいろいろなかたち
展覧会は発酵デザイナー・小倉ヒラクさんのアニメーション《おべんとうDAYS》から始まります。
おべんとうはプロダクトでありつつ、オルタナティブな言語であるということを教えてくれるこの作品には、《白陶朱漆組合せ瓢成り弁当》など本展で紹介されているお弁当箱が登場します。
会場へ入ると、そこにはずらりと並ぶ華やかなお弁当箱が……。
お辨當箱博物館(半兵衛麩 本店)、新宿歴史博物館からは歴史ある豪華でユニークなおべんとう箱が、そして瀬戸曻コレクションからは庶民が使っていた味わい深いおべんとう箱がやってきています。
また、国立民族学博物館は世界のおべんとう箱を紹介。当たり前ですが、おべんとうは世界中どこでも食べられているわけで、それにあわせておべんとう箱もあります。ユニークで、かつ合理的なものばかりで、世界の人々の知恵に驚くばかりです。これらのおべんとう箱の一部は実際に触って、重さを確かめたり、蓋を開けてみることができます。思わず欲しくなってしまうほど面白い作りになっているので、ぜひ触ってみてください。
壁をずらりと彩るのは出張食堂を営む大塩あゆ美さんの《あゆみ食堂のお弁当》プロジェクト。
朝日新聞デジタル「&w」の連載から始まったこの企画は、「あの人にこんなおべんとうを届けたい」というエピソードをもとに、大塩さんがレシピを考えるというもの。
大塩さんはおべんとうに対し「そこに気持ちが入っているから、ひとりで食べたとしても、誰かを感じられるお守りのようなもの」と語ります。普段何気なく食べているお弁当も、作り手の気持ちが込められている。改めてそれに気づくと、いただきますの言葉にも自然と心がこもります。
展示室の中央にぎっしり詰め込まれた美味しい空間は、NHK「サラメシ」でも“お弁当ハンター”として活躍する写真家・阿部了さんの作品群。とくにおべんとうを食べる人を撮影した《ひるけ》は、思わずお腹が空いてくるほど被写体の“素”の表情が魅力的です。
五感で体感! おべんとう
次はもっとも大きな展示室を使った、本格的な参加型の作品が展示されています。
まずはオランダのイーティング・デザイナーであるマライエ・フォーゲルサングさんの《intangible bento》。なんと「おべんとうの中」に入って、おべんとうの精霊とともに探検するという、驚きのインスタレーションです。
音声ガイドをパネルにあてると、おべんとうの精霊が語ってくれる「食」に関するストーリー。限りある資源を次世代にどう繋げていくか、そういった課題を通じたコミュニケーションのあり方を作品を通じて考えます。
北澤潤さんによる《おすそわけ横丁》もなかなか不思議な空間です。
おべんとうを食べるとき、誰かとおすそわけをし合った経験はありませんか?
このインスタレーションではさまざまな人が「おすそわけをしたい」と思ったものが集まっており、実際に鑑賞者はそれをひとつ頂くことができます。また、会場には“おすそわけの箱”が用意されており、それを持ち帰って今度は自分がおすそわけをする側に回ることもできるようになっています。
また、この横丁ではさまざまなワークショップも開催されていますので、ぜひ体験してみてください!
「おべんとうから考えるコミュニケーション・デザイン」
最後のエリアでは、「食べる」ことにまつわるコミュニケーション・デザインのこれからに想いを巡らせる二つの作品が登場します。
美術家の小山田徹さんの作品は、子どもと取り組む日々のお弁当作りの記録。弟のお弁当のためにお姉ちゃんが設計図を描き、それを元にお父さんがお弁当を作る《お父ちゃん弁当》がにぎやかに並びます。
日々生み出されるお姉ちゃんによる個性な設計図と、それを具現化していく小山田さん。おべんとうは他者への贈り物であることを示唆するとともに、二人でひとつのおべんとうを作るという作業を通じて、親子という関係性とはまた違った、プロジェクトメンバー的な対等の関係をも成立させます。
森内康博さんは「中学生が自分たちで一からおべんとうを作り、さらにその様子を中学生自身がドキュメンタリー映像にする」というワークショップを行いました。完成したおべんとうを見るのではなく、そのメイキングを見るという斬新な作品なのですが、なんとその映像はおべんとう箱の中で展開されるのです。これが本当に面白くて、すべてのおべんとう箱を開けてみたくなってしまうほど。どのおべんとうも趣向が凝らされており、苦労話も思わず笑ってしまいました。
おべんとうを食べるということ
一言に「おべんとう」と言っても、体系的に考えることで多くのものが見えてくることがわかります。
日常的であるがゆえに習慣化してしまった「おべんとうを食べる」ということ。
しかしその先にはあらゆるソーシャルなつながりがあり、能動的に関わることで、そのつながりはさらに価値を生み出します。
次におべんとうを手にするときは、ぜひこの展覧会のことを思い出してみてください。
きっと蓋を開けるのが今まで以上に楽しみになりますよ!
【展覧会情報】
企画展『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』
会期:2018年7月21日(土)~10月8日(月・祝)
会場:東京都美術館
休室日:月曜日、9月18日(火)、25日(火)
※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
※ただし、7月27日(金)、8月3日(金)、10日(金)、17日(金)、24日(金)、31日(金)は 9:30~21:00
料金:一般 800円/大学生・専門学校生 400円/65歳以上 500円
展覧会ホームページ:http://bento.tobikan.jp/