比べて見よう「西洋絵画、どこから見るか?」展 国立西洋美術館で

東京・上野の国立西洋美術館で「西洋絵画、どこから見るか?-ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 VS 国立西洋美術館」が2025年6月8日(日)まで開催されています。その後、6月25日(水)から京都市京セラ美術館に巡回し、10月13日(月・祝)まで開催されます。

この展覧会はアメリカ・カリフォルニア州のサンディエゴ美術館と上野の国立西洋美術館の所蔵品88点を組み合わせ、作品を見比べて西洋美術の魅力と600年の歴史を紹介するものです。サンディエゴ美術館から出品される49点はすべて日本初公開という点も魅力です。

それぞれの「どこみる展」を

フランシスコ・デ・スルバラン「聖ドミニクス」 1626~27年 国立西洋美術館
「手がハートの形になっていますね」と、「聖ドミニクス」と同じポーズをするディーン・フジオカさん

内覧会では音声ガイドナビゲーターのディーン・フジオカさんからメッセージがありました。直接、作品を見ると時代の移り変わりや感覚などが伝わってくる、作品を見て描かれたものを言葉にすると、思いもよらないゴールにたどり着くこともあると、おっしゃいました。

みなさんも作品を比べて見ながら、それぞれの 「どこみる」 を展覧会で探してみてください。

ルネサンスから西洋美術の歴史をたどる

左 ルカ・シニョレッリ「聖母戴冠」 1508年 サンディエゴ美術館 
右 ジョット(ジョット・ディ・ボンドーネ)「父なる神と天使」 1328-35年頃 サンディエゴ美術館 

サンディエゴ美術館は1926年に開館、サンディエゴの歴史や文化を反映してルネサンスやスペイン絵画の傑作を多数収蔵しています。

展覧会は14~16世紀のルネサンス絵画から始まります。作品の背景にある金色が濃紺の壁に映えて、より神聖な雰囲気が感じられます。半円、三角の形は元々が祭壇画だったためです。両作品の中央に描かれた神を、ジョット(1267年頃~1337年)は正面を向いた威厳のある姿、シニョレッリ(1450年頃~1523年)は聖母子を見つめる優しい姿で描いています。

左 ヤコボ・ティントレット 「老人の肖像」 1550年頃 サンディエゴ美術館 
右 ヤコボ・ティントレット 「ダヴィデを装った若い男の肖像」 1555~60年頃 国立西洋美術館

イタリア・ヴェネツイアで活躍したティントレット(1518~94年)が描いた男性の肖像画。ヘアスタイル、服装、背景はどこが違いますか。右の男性の背景には英雄ダヴィデが巨人ゴリアテを打ち負かせた残酷な場面が描かれています。

スペイン画家が描くリアルな「静物画」

展示風景「第2章 バロック」

17世紀美術のスペイン、イタリア・フランス、フランドル・オランダと地域別に紹介しています。

ファン・サンチェス・コターン「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」 1602年 サンディエゴ美術館 

「静物画」とは動かないものを描いた絵画のこと。これはスペイン画家コターン(1560~1627年)が台所の野菜、果物を描いた傑作です。よく知っている野菜なのに雰囲気が違うように見えます。キャベツの葉やメロンの切り口は超写実的、それぞれの影、漆黒の背景にも注目してみましょう。

フアン・バン・デル・アメン 「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 国立西洋美術館

アメン(1596~1631年)もスペインの画家、コターンが築いたスペインの静物画の基礎を踏まえて描いています。暗い背景はコターンと同じですが、2人の作品を比べると奥行きや光の描きかたに違いがありそうです。

聖なる人物をどう描いた

フランシスコ・デ・スルバラン 左から
「洞窟で祈る聖フランチェスコ」 1658年頃 サンディエゴ美術館
「聖ドミニクス」 1626~27年 国立西洋美術館
「聖ヒエロニムス」 1640~45年頃 サンディエゴ美術館
「聖母子と聖ヨハネ」 1658年 サンディエゴ美術館

ここは内覧会でディーン・フジオカさんが立っていた場所。スペインのスルバラン(1598~1664年)が1人ずつ聖人を描いた3点と聖母子を描いた1点が並んでいます。聖人はほぼ等身大、聖人を象徴する犬やライオンも一緒に描かれています。「聖母子と聖ヨハネ」は鮮やかな色と表情にも注目しましょう。

風景はどこを見る

展示風景「第3章 18世紀」
右2点 ユベール・ロベール 
左 「モンテ・カヴァッロの巨像と聖堂の見える空想のローマ景観」 1786年 国立西洋美術館
右 「マルクス・アウレリウス騎馬像、トラヤヌス記念柱、神殿の見える空想のローマ景観」 1786年 国立西洋美術館

4点の風景画。右の2点はローマを、左の2点はヴェネツィアを描いています。17~18世紀、イギリスで良家の子弟が古典的教養の修得のためにおこなわれたヨーロッパ大陸への旅行を「グランドツアー」といい、旅先の都市風景が盛んに描かれました。

右の2点は「廃墟のロベール」と呼ばれたフランス人画家ロベール(1733~1808年)が、古代遺跡や名勝に空想を加え、18世紀当時の服装の人物を描いています。

左 ベルナルド・ベロット「ヴェネツィア、サン・マルコ湾から望むモーロ岸壁」 1740年頃 サンディエゴ美術館

グランドツアーで訪れ、記念に求めたのは写実的な風景画でした。イタリアの画家ベロット(1721~80年)は風景画の巨匠カナレットに学んだ甥です。空想のローマと写実のヴェネツィアを比べて見てください。持ち帰りたいのはどちらでしょう。

女性たちはどのように描かれたか

展示風景「第3章 18世紀」
中央 アントニオ・カノーヴァと工房 「踊り子の頭部」 1820年 サンディエゴ美術館
左 マリー=ガブリエル・カペ「自画像」 1783年頃 国立西洋美術館
右 マリー=ギュミーヌ・ブノワ「婦人の肖像」 1799年頃 サンディエゴ美術館

フランス革命の時代を生きた2人の女性画家の作品です。

左のカペ(1761~1818年)の「自画像」は画架の前に座ってチョークホルダーを持っています。華やかな服装はパトロンを得るためでもあったらしい。筆者は左から見る、優しい表情が気に入っています。右からあるいは下から見ると、ちょっと美貌を自慢している感じもします。この作品は常設展によく展示されています。今回の展覧会ではチラシやポスターに取り上げられ、華やかな舞台に立ったように思えました。

右の「婦人の肖像」は古代風の衣装をまとった女性を描き、ブノワ(1768~1826年)が師事したダヴィットの理想にかなった作品です。

画のなかの2人の女性は青いリボンを髪につけ、視線を絡めて、何やらものを言いたげです。左作品の額の上部にはリボン、右作品の額上部には壺、縁は果物で飾られています。

ホアキン・ソローリャ 左から「ラ・グランハのマリア」 1907年 サンディエゴ美術館 
「バレンシアの海辺」 1908年 サンディエゴ美術館
「水飲み壺」 1904年 国立西洋美術館

最後の章は19世紀絵画の人物に注目した展示。スペインのソローリャ(1863~1923年)は写実の伝統に基づきながら、明るい光をとらえています。右の2点は画家の故郷の海岸で描かれています。

キャプションの隣には、作品を見るポイントも書いてあります。丸いボード「DOKOMIRU?」には「スペインの太陽のあたたかみを味わおう」など、ヒントもあります。

常設展でも比べて見よう

左 コズメ・トゥーラ 「聖ゲオリギウス」 1475~76年頃 サンディエゴ美術館
右 ロヒール・ファン・デル・ウェイデン(派) 「ある男の肖像」 1430年代 国立西洋美術館

サンディエゴ美術館所蔵作品から5点の絵画が常設展に展示されています。この2点は油彩画技法を使った男性の横顔、それぞれ鎧の光沢、毛皮の細密度にも注目してみましょう。

左はフェラーラ(イタリア)のトゥーラ(1430年頃~95年)が描いた祭壇画の一部、右は初期フランドル(ベネルクス三国の周辺)派の画家ウェイデン(1399/1400年頃~1464年)の作品。

常設展示室「コレクション・イン・フォーカス」、同作品名「聖アントニウスの誘惑」の3点
左からダフィット・テニールス(子)、アンリ・ファンタン=ラトゥール(松方コレクション)、ジャン=ルイ・フォラン(松方コレクション)

同じ作品名の3作品が並べて展示されています。聖アントニウスが人里離れた場所で修業をしていると悪魔から誘惑を受けたと伝えられ、多くの美術作品になっています。フランドルのテニールス(1610~90年)、フランスのラトゥール(1836~1904年)、フォラン(1852~1931年)は同じ作品名をどう描いているのでしょうか。

煌びやかなおよそエマーユ150点

「梶コレクション展―色彩の宝石、エマーユの美」 展示風景 版画素描展示室(常設展示室内)

ジュエリーアーティストの梶光夫さんから寄贈されたおよそ150点のエマーユが展示されています。エマーユは日本で七宝と呼ばれ、金属の下地にガラス質のうわぐすりを焼き付けた工芸品です。19世紀後半から20世紀初頭のフランスで制作されたコインのような単体、ジュエリーに仕立てられたもの、小箱のふたを飾るものなどの形に施された繊細な描写と鮮やかな色彩が魅力です。

「梶コレクション展―色彩の宝石、エマーユの美」 2025年3月11日[火]-6月15日[日]

「どこみるde夜会」にでかけましょう

カペ「自画像」に扮する音声ガイドナレーターのTBSアナウンサー・日比麻音子さん
左はアメイクを担当したSCREEN美容師の橋本佳奈さん

作品を比べて見る「どこみる展」はいかがでしたか。いつもと異なる作品との出会いがあったでしょうか。

4月の週末には「どこみるde夜会」が開かれます。絵画の人物になった気分で出かけましょう。ただし、カペの青いドレスはちょっと作品に触れそうですね。展覧会のマナーを考えた服装でおでかけください。企画展の改札で「夜会に招待されました!」と申告すると、ポストカードのプレゼントがあります。

「どこみるde夜会」 4月18日(金)、19日(日)夜間開館時(17:30~20:00 入館は19:30まで)

思い出グッズを持ち帰ろう

展覧会の特設ミュージアムショップ

展覧会オリジナルグッズが多種多数並んでいます。おすすめは絵画のなかに登場したヒツジやリボン、レモンの皮が刺繍されたブローチです。

国立西洋美術館のミュージアムショップ

特設ショップの奥にある、国立西洋美術館のミュージアムショップにはモネの「睡蓮」、ゴッホの「ばら」をはじめ、収蔵品をもとにしたさまざまなミュージアムグッズ、収蔵品カタログ(名作選)、美術書籍が並んでいます。

展覧会情報

展覧会名西洋絵画、どこから見るか?-ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 VS 国立西洋美術館
会場東京展 国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
会期2025年3月11日(火)~6月8日(日)
開館時間9時30分 〜 17時30分(毎週金・土曜日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日月曜日、5月7日(水) ただし、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)は開館
入館料一般2300円 大学生1400円 高校生1000円(すべて税込)
※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料
展覧会公式ウエブサイトhttps://art.nikkei.com/dokomiru/
国立西洋美術館ウエブサイトhttps://www.nmwa.go.jp/

京都展 京都市京セラ美術館 2025年6月25日(水)~10月13日(月・祝)

https://kyotocity-kyocera.museum/

関連記事

書籍やカタログ、絵はがきで振り返る「国立西洋美術館」の名品!休館中の予習・復習にいかが?
https://rakukatsu.jp/nmwa-introduction-20210428/

おすすめの記事