こんにちは、ライターの ”夜の美術史。” です。
新型コロナウイルスの影響で、気軽に海外旅行に行けなくなり約1年が過ぎましたね。「趣味=海外旅行」という人は、悶々と過ごされているのではないでしょうか。(私もそのひとりです)
さて今回は、そんな「海外旅行に行きたくても行けない」あなたが、次の海外旅行をより一層楽しめるよう、少し変わった絵画技法を紹介します。
紹介するのは、イタリア・ヴァチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂の天井画で、ルネサンスの巨匠・ミケランジェロが描いた絵画です。
これを読めば、あなたもイタリアにいるような気分になれる…はず!笑
システィーナ礼拝堂の天井画「天地創造」
ヴァチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂は、イタリアを代表する観光地のひとつですよね。
ここは、ミケランジェロの2つの絵画があることで有名です。
ひとつは「最後の審判」、そしてもうひとつが天井画です。
天井画には、旧約聖書の正典『創世記』をテーマに、様々な場面が描かれています。有名なのは、神が粘土で作った最初の人間であるアダムに命を吹き込む『アダムの創造』と呼ばれる場面でしょうか。
この天井画においてミケランジェロは、「カンジャンテ」と呼ばれる、とても奇妙な技法を多用しています。
今日のテーマが、このカンジャンテです。
「カンジャンテ」とは
突然ですが皆さんは絵に色を塗るとき、どのように奥行きや立体感を表現しますか?
暗い色で影をつけたり、光が当たる部分に白でハイライトを入れたりするのが、今でもよく使われる方法ですよね。このように陰影をつける人が大半だと思います。(別の斬新な方法をご存じの方がいれば、それは素晴らしいことであります笑)
一方カンジャンテは、黒や白で陰影をつけるのではなく、全く異なる色を、ハイライトもしくは影として使用することで、陰影をつける技法です。……と言ってもこの説明だけではよくわからないと思うので、実際にカンジャンテが使われている部分を見てみましょう~!
この絵はミケランジェロが描いた天井画の一部です。
注目すべき場所は、この人物の右膝ですね。
色の表現に目を向けてみると、黄色と黄緑色で描かれた布が膝にかかっていることがわかります。
実は、この布の本来の色は黄緑色で、そこにミケランジェロは黄色をハイライトとして使用することで陰影を表現しています(なんと!)。
もし、「リアルさ」を追求するのであれば、「膝の部分を白のハイライトで表現する」というのが、現在、よく利用される表現技法です。そこをあえて、黄色と黄緑という異なる色で陰影をつけるのがカンジャンテです。
こうすることで我々鑑賞者は、「違和感のある」「奇妙な」「歪んだ」といった印象を受け取ることになります。
どうでしょう。とっても変わった表現だと思いませんか?
わたしにはこんな方法、思いつかないです笑
ミケランジェロは、ただ単にリアルを追求して立体感を出すのではなく、あえて奇妙な印象になるように、カンジャンテという技法を使ったのであろうと思われます。
またこの絵の中では、人物が羽織っているスカーフ部分にもカンジャンテが使われています。
少しわかりづらいですが、赤い丸で囲った部分は「赤」と「薄い紫や青」で陰影を表現しています。これもカンジャンテです。非常に印象的で、インパクトのある色彩表現ですよね~。
ミケランジェロの色彩感覚がとても活かされた絵画だと思います。
ミケランジェロと言えば、筋肉の表現や人体表現が注目されることが多いのですが、個人的にはこの独特な色彩表現もミケランジェロが後世に残した大きな功績だと思うのです…!(私はミケランジェロが大好きです)
では最後に、システィーナ礼拝堂の天井画の中から、もう一つカンジャンテを使った表現を見てみましょう。
どの部分がカンジャンテと呼ばれているかわかりますか?
正解は上半身の衣服です。
衣服自体の色はおそらく赤みの強いオレンジだと思われますが、右肩~右上半身あたりの部分には黄色が大胆に使われていることがわかります。
これはオレンジと黄色の衣服をまとっているのではなく、オレンジの服に立体感を持たせるために黄で陰影(ハイライト)をつけているのです。派手な色使い!
ただ、この絵は同系色で陰影がつけられているので、最初に見た絵よりも奇抜な印象は薄れますね。
ほかにもたくさんの場面でカンジャンテが使用されているので、システィーナ礼拝堂に行く際にはじっくり探してみてください。(残念ながら当分行けなさそうですけどね…)
さいごに
カンジャンテ、とても変わった表現でしたね~ほんと凡人には思いつかないです(笑)
この「カンジャンテ」は、実はルネサンス期以前にも使われていた技法なのですが、ルネサンス期にミケランジェロが頻繁に使い、その後マニエリスムや印象派の画家たちも使用しました。
また、私たちに身近なところでいうと、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズにおいても荒木飛呂彦先生もカンジャンテを使っているそうです。たしかにジョジョの色彩表現もすごく個性的でインパクトがありますよね。
このように数百年前に使われていた表現技法が、現代の日本のマンガにも影響を与えていることを知るのも面白いですよね。
実は、ジョジョには、他にも西洋絵画を参考にした表現がたくさん登場するので、美術史を学んでからもう一度見直すと別の面白さが出てくると思います…!
こうやって絵画技法を知ることで、これまで「なんとなく」見ていた絵の楽しみ方がかなり増えます!
だから私は美術史が好きです。
なかなか海外旅行には行けそうにないですが、お家でアートを学んで、いつか海外旅行に行けるようになったときのために準備しておきましょう!
ではまた次回。
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数ある楽活のアート記事の中でも、人気記事の一つとして読まれ続けている”夜の美術史。”さんの第1回【美術史入門】記事。非常に読みやすい語り口ながら、数あるイタリア・ルネサンス絵画の中でもなぜレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」が優れているのか、その技法面から紐解いてくれています!
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