【顔面学講座㉖】 日本中の仮面が国立民族学博物館に集結!特別展「日本の仮面――芸能と祭りの世界」 

3月28日からスタートした、国立民族学博物館にて開催されるみんぱく創設50周年記念特別展「日本の仮面――芸能と祭りの世界」(会期は6月11日まで)の内覧会と開会式に参加しました。

今回は「顔研究家」として本展覧会の見どころをレポートします。

昨年、11月に【顔面学講座㉒】仮面とは何か? 変装、変身、日本人の仮面好きを考えるで書いたように日本は世界随一の仮面の宝庫です。

その日本各地の仮面が、大阪府吹田市の万博記念公園にある、国立民族学博物館に集結しました。

仮面研究家の私としては、夢のような展覧会。

国立民族学博物館は万博記念公園の中にある

万博記念公園の中央口で観覧券を購入して入ると正面に太陽の塔がお出迎え(観覧券で園内を無料で通行できます)。

太陽の塔の「黄金の顔」と「太陽の顔」
太陽の塔広場の裏手に国立民族学博物館の行き先案内が出ていました。

お祭り広場の横をまっすぐ進むと国立民族学博物館に到着。

国立民族学博物館 特別展示館 外観
特別展示館入口

国内各地で、仮面や仮面をつけた役が登場する芸能や祭りがおこなわれてきました。仮面や仮面をつけた役柄が重要かつ印象的な国内各地の芸能や祭り(9ヵ所)で用いられる面を中心に、仮面の歴史、仮面と人間の関係などを紹介。

それらをつうじて仮面と人々との多様なかかわりについて考えることをテーマにしています。

報道・出版向け自由内覧で一通り見てから、実行委員長の笹原亮二教授(国立民族学博物館)による解説もありました。

コーナーごとに紹介します。

仮面の歴史と多様性

第1章 仮面の歴史」では、日本の芸能や祭りにおける面の歴史を考える。「発掘された仮面」「古代」「中世」「江戸時代」と各時代の芸能や祭りの仮面を紹介。

「①発掘された仮面」

仮面として使用された可能性がある縄文時代の木製仮面や土面などを展示。

「②古代の芸能と仮面」では、伎楽面、舞楽面の展示がありました。

「③中世の芸能や祭りと仮面」

展示風景

さまざまな芸能が各地の祭りで盛んにおこなわれるようになり、面の様相が多様化してきたことがわかります。

「田楽面 くにしげもどき(笛吹き)」が、メキシコやペルーで見つかった「宇宙人のミイラ」とされるものの顔に似ていました。

奈良県の念仏寺陀々堂の鬼面は、文明18年(1486年)に作られたものが3つ展示されていて、どれも大きく、1番大きな父鬼(赤鬼)面は60cm以上もあって迫力満点でした。

「④江戸の芸能や祭りと仮面」

展示風景(国立民族学博物館提供)

大土地神楽(島根県出雲市)で八岐大蛇退治に使用された木造の蛇頭(じゃがしら)は、目や口の表情が素晴らしかったです。 天明8年(1788年)の製作で、製作年代が推定できる蛇頭としては最古。

「蛇頭」とありますが、角やヒゲのある「龍」の顔でした。今年は辰年ですが、他にも「蛇頭」や「龍」をモチーフにした面も多数ありました。

伊勢大神楽の獅子頭

全国9ヶ所の祭りや芸能の仮面を映像とともに紹介

第2章 祭りや芸能の中の仮面」では、全国9ヶ所の芸能や祭りで使われる仮面を、実際の使用風景の映像とともに紹介していて、多様性に富む仮面の様相を見ることができます。素材や色、表情など、地域の祭りによって多種多様な仮面が展示されていました。その一部のみを紹介します。

①奄美の島々の豊年祭と仮面(鹿児島県瀬戸町)

展示風景

奄美の島々では、旧暦8月から9月ごろにかけて豊年祭が開催されます。油井の豊年踊りで使われる紙製の「紙面」が多数展示されていて、かわいらしい顔が多かったです。

②硫黄島の八朔太鼓踊りと仮面(鹿児島県三島村)

展示風景(国立民族学博物館提供)

旧暦8月12日に行われる「八朔太鼓踊り」では渦巻模様の大きな耳や一本角の異相の面をかぶった「メンドン」が現れる。メンドンは踊りを邪魔したり、暴れ回っても「天下御免」で咎められることはない。男児たちが自作の面をつけて扮したヤッガヅラも現れる映像も必見です!

③遠山の霜月祭(長野県飯田市)

④鳥取東照宮祭礼と仮面(鳥取県鳥取市)

展示風景(国立民族学博物館提供)

1650年代当時の記録では、面被りが「鼻高面」「獅子頭」など趣向を凝らした仮面で仮装をして行列していた。江戸時代から大正時代にかけて作られたさまざまな面が展示されていて、顔を歪めたものや鼻の下が伸びたものなど、表情が多彩でした。

⑤雨宮の御神事・御神事踊りと仮面(長野県千曲市)

⑥御霊神社の面掛行列(神奈川鎌倉市)

⑦出雲神楽の神楽道具の貸元、林木屋の神楽面(島根県出雲市)

展示風景(国立民族学博物館提供)

『古事記』『日本書紀』の神話などを面をつけて演じる神能から構成される神楽が各地でおこなわれた。そのため、「素戔嗚尊」「大国主命」「天照大神」などの面が展示されていました。どんな顔で表現されているかは、ご自身の目で確かめてください。

⑧面劇(徳島県石井町)

⑨矢田寺の練供養(奈良県大和郡山市)

展示風景(国立民族学博物館提供)

似たような「菩薩」の面だけでも20点以上展示されていましたが、観相家としては「赤鬼王」と「閻魔大王」の耳の形の違いが興味深かったです。

2階に上がって

鬼、悪霊、天狗、翁、仏、道化…の顔の特徴とは?

第3章 仮面の諸相」では、全国各地の仮面が多様性に富んでいる一方で、分類してみると役によって共通した特徴が見られることがわかりました。神霊・歴史上の人物・聖獣といった面の類型について紹介されています。

①仮面の表情

「神楽の神々」「翁」「悪鬼・悪霊・幽霊」「天狗」「鬼」「道化」「人物」「聖獣」「獅子」「虎・鹿・蛇」「妖精」「地域の神霊」「仏」「動物(サル、キツネなど)」とジャンルごとに分類されていて、仮面の表情の表現のされ方がそれぞれ驚くほど酷似していることがわかりました。

例えば、悪鬼・悪霊は100%悪いような顔で、鬼と天狗は善悪両方を併せ持つような顔に作られているのです。

「舞楽面 陵王」は頭に龍が乗っていて表情もデザインも最高でした。これはぜひ見てください!

メインビジュアルの1つにも採用されている緑色をした「佐賀県の獅子頭」。スペル・デルフィン選手のマスクにも似たようなデザインがあったように思います。
笹原実行委員長が気に入っていると言っていた「なまはげの面」が中央左側。一般的によく見られる「なまはげの面」とは違って赤色や青色に塗られていない。

②仮面と人のあいだ

誰が扮したかわからないように「秘してつける」。「つけずに祀る」「人前でつけて演じる」「顔を見せてつける」「面をつけて面をつける」など、仮面と人の関係は一様ではないことがよくわかりました。

③演じる面

同じ面でも角度によって表情を変える能面(笑ったようにも泣いたようにも見える)

④面をつける

面の裏側の展示や、実際に目の穴から見たらどのように見えるかの「体験コーナー」もありました(面をつけると視界が塞がって見にくい)。

月光仮面、仮面ライダーから現代のプロレスラーまで

第4章 ヒーローと仮面」では戦後の仮面ヒーローの系譜や現代の仮面ヒーローを紹介。

①仮面のヒーロー

「月光仮面」「仮面ライダー」「タイガーマスク」などの玩具の展示

スペル・デルフィン氏所蔵の仮面ライダーやタイガーマスクのソフビ人形、さらには「仮面の忍者 赤影」の仮面も展示されていて、デルフィン氏の「仮面愛」を感じました。

②ハレの日の変身

昭和の戦後の屋台で売られていたお面の展示。

③プロレスラーと仮面

スペル・デルフィン氏所蔵のタイガーマスクや獣神サンダー・ライガーなどのプロレスマスクの展示。今回の特別展のために製作したスペル・デルフィンとみんぱくコラボデザインのマスクもありました。

現代では、地域密着のプロレス団体が多数できて、その地方ならではの仮面レスラーが誕生しています。

最後のメンドン・ゾーンがフォトスポットになっていて、こちらでは自由に撮影ができます(SNS用にぜひ!)

ミュージアムショップ

Tシャツ、書籍、お面、キーホルダーなどさまざまなグッズがありました。

仮面に魅せられ、仮面とは何か?を考える。

開会式では来賓を代表してスペル・デルフィン氏(覆面レスラー・大阪府和泉市議員)が挨拶。

約700点もの資料が展示され、「日本の仮面とは何か?」「日本とは何か?」を考えるきっかけになる展覧会です。

「仮面」という言葉は、江戸時代の文献にはあるものの、当時はあまり使われていない比較的新しい言葉で、芸能や祭りにおいても「面(めん、おもて)」と呼ばれてきたそうです。

「仮面」という字には「仮」の文字がついているが、「果たしてそれは『仮』なのか?」

この特別展を見ることで、「仮面とは何か?」「人間とは何か?」「顔とは何か?」を感じることができることでしょう。

関連イベントも多数開催されます。

詳しくはホームページをご覧ください。

展覧会情報

展覧会名みんぱく創設50周年記念特別展
「日本の仮面――芸能と祭りの世界」
会期2024年3月28日(木)~6月11日(火)
会場国立民族学博物館 特別展示館
休館日水曜日
観覧料一般 880円 / 大学生 450円 / 高校生以下無料
ホームページhttps://www.minpaku.ac.jp/ai1ec_event/46168
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