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滋賀県には日本唯一のきのこの神社があった! 菌(くさびら)神社

日本には八百万(やおよろず)の神がおられると言われ、実にたくさんの神社がありますが、その中には「きのこ」の神社もあります。滋賀県栗東(りっとう)市の菌神社です。

「くさびら」と読み、「きのこ」の古語です。一部地域では今も方言として使われています。

きのこそのものの名前の神社は、日本で菌神社だけだといいます。近年になって、きのこ栽培業者などが既存の神社の分社として「椎茸神社」や「松茸神社」という神社を創建しています。ですが、菌神社のように、特定のきのこではなく、きのこそのものを社名にする神社は他にありません。しかも創建が637年と伝えられる、非常に長い歴史を持つ神社です。

私は1994年に初めて菌神社を訪れました。なぜならきのこが好きなので、その存在を知った以上、行かねばなりません。幸い、きのこ好きのネットワークで、「きのこの名前の神社があるらしい」という情報を得ていました。

しかし、その当時は観光ガイドなどには全く情報が載っていませんでした。(今ではネットなどに載っています)

そこで、社名を頼りに、栗東町(当時)の住宅地図を探して、場所を調べました。もちろん地元では当時でも知られた神社で、道に迷った時に通りがかった方に道を尋ねると「ああ、きのこの神社ね」と、道順を詳しく教えてくださいました。

こうしてついに到着した菌神社は、きのこのアイコンは当時見られず、鎮守の森に囲まれて静かにたたずんでいました。掃除はきちんとされていて、地域の信仰を集めていることがうかがわれました。

それから、私は菌神社によく行くようになり、菌神社にまつわる話も耳にするようになりました。

菌神社栗東市の中沢地区の氏神です。無人社で、草津市の伊砂砂(いささ)神社が管理をしています。

由緒書によると、菌神社の祭神は意富斗能地神(おおとのじのかみ)意富斗乃辨神(おおとのべのかみ)の二柱です。

菌神社は、社伝に「舒明天皇九年(注・西暦638年)勧請する所」とあり、その時「口狭比良(くさびら)大明神」と称しました。舒明9年というと、飛鳥時代です。その後、室町時代に「草平(くさびら)大明神」とし、安土桃山時代から「菌大明神」と称されるようになりました。現在の「菌神社」となったのは、明治以降のことです。これは、神道の歴史的変遷やきのこの表記の仕方によるものと考えられます。

さて、この菌神社には、非常に興味深い話が2種類伝わっています。

一つは、菌神社の由緒記によるものです。

西暦100年ごろ、武田折命の乳母が賜った田を耕したところ、一夜にしてきのこが生え、その話をお聞きになった景行天皇が、武田折命に菌田蓮(たけだのむらじ)の名を賜った、という(しかし、後に武田蓮に戻した)。

「一夜にして」きのこが生えたのが、よほど不思議なものに映ったのでしょう。現代人の我々でも普通驚きます。また、小さなきのこの目に見えないたくましい力を通じて「天地開闢の神」とされる意富斗能地神、意富斗乃辨神の大いなる力を感じ取ることが出来たのではないでしょうか。

また、これとは別に、地域の言い伝えとして知られている菌神社の由来があります。

舒明天皇の630年頃、このあたりにひどい飢饉があり、人々は餓死寸前の状態に追い込まれた。このとき、森やその周辺一帯に、それまでなかったきのこが大発生した。

そのきのこは、アシやマコモなどの枯れ草に生じたもので、口にしたところ、食べられるきのこであることが分かった。

近隣の人々は、このきのこを食べることで、餓死の難から免れることが出来た。このきのこが当社の神域に発生したことから、これを神意の顕れであるとし、その感謝の気持ちをこめて、誰かれとなく「菌神社」と呼ぶようになったという。

この一夜にして生えたきのこは、いったい何のきのこでしょう。もちろん、2千年も昔のことを推測するのは難しいですが、『風流きのこ譚』(今関六也著)という本に、菌学者本郷次雄氏の見解として、ヤチヒロヒラタケが挙げられています。

ヤチヒロヒラタケは湿地に生えるきのこなので、水田などにヤチヒロヒラタケが生えてもおかしくはありません。しかもヤチヒロヒラタケは食用となり、日本各地で食用きのことして利用されるナラタケよりも美味だと言われます。私はヤチヒロヒラタケを食べたことがありませんが、少なくともナラタケはおいしいです。

この言い伝えで挙げられる飢饉は、舒明2年(630年)頃のこととされていますが、推古35年(627年)に全国的な大飢饉があったという記録が『飢饉通考』などの文書にあります。これは、この時の飢饉のことを指すのではないでしょうか。これだけ昔の話だと、数年の誤差はあってもおかしくありません。全国的にということなので、おそらく、中沢の地にもこの飢饉の影響はあったでしょう。

それにしても、きのこは飢饉の際の救荒食になり得たのでしょうか。きのこは今日ではダイエット食に用いられるくらい、低カロリーな食材として知られます。私は以前きのこレシピ開発のため、1週間きのこ料理を朝昼晩と食べ続けて、体重を3kg減らしたことがありますが、その話を栄養士にすると「健康のために、そのようなことはもうしないで下さい」と忠告されました。また、ある医師からは「きのこだけではエネルギーが足りないのではないか。また、三大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質)を満たさないから、飢えから救われないのではないか」という指摘を受けました。そう考えると、この言い伝えにはちょっと疑問が感じられます。でもわかりやすい、きのこ的にいい話です。

いずれにせよ、菌神社日本唯一の「きのこの神社」であることは間違いありません。

もし菌神社に行かれるなら、普段の静かなたたずまいを感じながらお参りしても良いし、初詣も良いです。(私は毎年1/1にお参りしています)

5月5日の例大祭の日もお勧めしたいです。

例大祭では、特殊神饌として「じゃこのなれずし」が供えられます。さすがは滋賀県、琵琶湖の「なれずし」文化の地です。

じゃこのなれずしとは、かつては神社の前を流れる葉山川から獲れたいろいろな小魚(じゃこ)を米とともになれずしにしましたが、現在、魚は購入したワカサギを主に使用しているそうです。六人衆が持ちまわりでこのなれずしを作るとのこと。漬け込みが10日程度の「早なれずし」を供えています。 

 六人衆とは、原則として中沢に住む年長から年の順に6番目までの男性の氏子が宮当番をつとめるというもので、室町時代にはすでに6人の村人が当番をつとめると記述があるそうです。現在も、形は変わっている部分がありますが、基本的にこの慣わしが続いています。

また、おそらく後付けでしょうが、「菌」つながりということで、全国の酵母とかかわる酒造家やカビに関わる仕事の人、また菌類ではないですが細菌類の研究者などからも崇敬を集めています。もちろん、きのこ関係者からは言うまでもありません。今では菌神社の方で把握しているだけでも北は北海道、南は鹿児島から、海外ではアメリカ合衆国からも菌神社にお参りに来る方がおられると伺っています。

菌神社の祭神意富斗能地神、意富斗乃辨神には万物を豊かにするご利益があるとか。それはもちろん、きのこにも及ぶでしょう。きのこのお力を戴きに、ぜひお参りされてはいかがでしょうか。最寄り駅はJRの「草津」か「栗東」です。

元旦に雪が降った年もあります(2011年)

【情報】

菌神社
滋賀県栗東市中沢1-11-15
077-562-1725(伊砂砂神社)
ホームページ:https://www.isasajinja.com/

堀 博美

投稿者の記事一覧

神戸出身、京都在住のフリーライター。専門はきのこ。きのこライターとしての主な仕事に、書籍「きのこる キノコLOVE 111」(山と渓谷社)「ときめくきのこ図鑑」(山と渓谷社)「ベニテングタケの話」(山と渓谷社)「珍菌」(光文社)「毒きのこに生まれてきたあたしのこと。」(天夢人)などがある。WEBや雑誌、新聞などにも執筆経験あり。

一方で、長年現代アートに携わり、現在も制作活動を続けている。
きのことアートはライフワーク。その他、珍しいお菓子、京都街歩き、同人誌イベント、音楽鑑賞(米良美一さん推し)などに興味がある。

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