今、clubhouseで起きていること。独自の展開を続けるclubhouseはその進化を止めてはいない。「楽しめる」部屋の扉は自分で「開ける」。

【2021年11月17日 Update】

2021年、鳴り物入りで日本でもスタートした音声SNS「clubhouse」。サービス開始から半年以上が過ぎた今、そのブームは落ち着いているように見えます。しかし、本当にオワコンだなんて言ってしまえるのでしょうか。

2021年に入ってから日本でも利用者が増え始めた音声SNS「clubhouse」。

ひとつの「room」に集った人たちが、話をしたり聞いたり。

声だけのグループチャットで開かれるのは、雑談だったり、音楽を聞く場だったり、セミナーを開催する場だったり。自分の「興味」と「趣味」で選んだ場所に「参加」することができるSNSです。

最初は、すでにアカウントを持っている人からの招待がないと入ることができない仕様だったので、招待枠が高値で売買されていたことも。その招待枠が2人から5人、10人と徐々に増え、2021年8月以降招待は不要になっており、今ではアプリをダウンロードすれば参加が可能です。(利用年齢制限等は有り)

また、サービス開始当初はアプリ開発がiPhoneのみでしたが、2021年の5月からAndroidアプリでもサービスが開始され、多少の機能の違いはあるものの、ほぼ利用には隔たりのない状態になりました。

しかし残念ながらAndroidユーザーに解禁となっても、最初のように爆発的に利用者が増えたという肌感覚はありませんでした。

マネタイズに対応できなかった日本シーンがユーザー離れになった可能性も。

アメリカでは実装されている「投げ銭」システムは、2021年10月現在、日本では未だ導入には至っていません。セミナーの有料化や、有益な情報を聞けた御礼のチップのような意味での送金は、アメリカ在住の一部の利用者以外はアプリ内ではできずじまい。

clubhouseでの活動を直接収入に繋げようと思っていた人は、早めに見切りをつけたのかもしれないですね。(ただし、2021年末からの導入に向けて開発が進んでいるという話もあります)

最初は競うようにアカウントを開設したスター芸能人も、徐々に姿を消し、芸能人のトークを聞くことが目的だった人々が、アプリを使わなくなったのは想像に難くないです。

でも本当に、「スター不在のclubhouseはつまらない」ということになるのでしょうか?

いいえ。私はそうは思いません。

音声配信に特化したSNSという場で楽しませてくれる音楽シーンの数々。収録でも台本でもない、「本当の生配信」がそこに。

最近のclubhouseで増えているのが、音楽を流している「ルーム」(もしくは番組、放送、部屋という言い方をする場合も有り)です。

筆者もよく音楽系のルームに参加します。

楽器の演奏をしていたり、弾き語りだったり、既存の音楽を流していたりと様々ですが、その中でもひときわ人気を集めている私の好きな音楽系ルームを二つご紹介したいと思います。

FMラジオを聞いているかのような完成度の高い番組「PALM Morning Coffee Music Session Saturdays」

関西からドバイやスペインと世界を舞台に活動しているDJ Koichi Sato

毎週土曜日の朝8時から10時まで放送される「PALM Morning Coffee Music Session Saturdays」では、大阪のFM802でもDJ経験があり、現在は海外のレーベルで活躍している、プロDJのDJ Koichi Satoさんが、リスナーからのリクエストやその日のテーマに沿った曲をかけながら軽快なトークで盛り上げ、リスナーを楽しませています。

最近番組の放送日が変わり、土曜日のみになりましたが、2021年2月から11月までの9ヶ月間、ほぼ毎日、朝8時から9時半までの放送を続けていたのは、同じクラブハウスで活動している私にとっては偉業としか思えません。

音質へのこだわりもプロフェッショナル。接続可能な音響システムに制限のあるclubhouseでなぜこんな音が出せるの!?と驚くようなクリアなサウンドが大きな魅力となっており、他の音楽系ルームよりも明らかに頭一つ抜きん出ている感じです。

その証拠に、日本人リスナーがメインに集まるclubhouse上の音楽系番組で、当時では毎日、そして今も毎週およそ200人が最後まで常駐し、トータルで400名を超えるアクセスを誇るルームは他にはなかなかありません。

番組オリジナルグッズのプレゼント企画があったり、設けられたテーマに沿ったアイコンを準備して参加する日があったりと、飽きない仕掛けもあります。

ちなみに、DJ Koichi Satoさんとメッセージやリクエストのやり取りも可能。Instagramのメッセージ機能を活用しています。音楽番組のため、clubhouse内で直接話す機会はほとんどありませんが、リスナーは番組への「参加感」を実感することができ、より番組への親密度を増しているようです。

私もアイコンの絵を毎回描いて参加しています。番組内でその絵にコメントをもらえたりすると、とてもうれしくなってしまいますよね。

最近では、リスナーが番組のアイコンやマスコットキャラクターのアートなどを集めることを目的に、番組専用のNFTのプラットフォームが開かれました。告知直後の2日間で、約70名ものリスナーがNFTアカウントを新たに開設し、番組アイコンを取得したそうです。

NFTといえば、まだまだ活用に足踏みする人が多かったり、そもそもNFTについて何も知らないという人も多い中、リスナーにアカウントを作ってみたいと思わせてしまう番組の強い影響力には本当に驚かされました。

音楽番組からNFTアートへと、コミュニティ内の活動が予想外の方向へと広がっていくのは、clubhouse発ならではでしょうか。全く新しい発展の形を常に見せつけられているような気がします。

そして、その独自の発展の形は、ホストを務めるDJ Koichi Satoさんの細やかな心遣いとコミュニケーションの技量に支えられていることは間違いありません。リスナーを楽しませるために常に新しいことを考え続け、実行しているところも、この番組とDJ Koichi Satoさんに人気が集まる理由かもしれないですね。

clubhouseが、音楽が、海外につながっていることを実感させてくれる。ヒプノティックな空間でリスナーは世界にいざなわれる。

繊細ながらもスペーシーなサウンドが素敵なDJ Mika Kitten

音楽シーンとして、clubhouseでハウスミュージックroomを展開しているDJ Mika Kittenさんも、私がご紹介したい一人です。

2010年から大阪を中心にDJとして活動を始めた彼女の舞台は主に海外。スウェーデンやドバイのクルージングパーティをはじめ、ヨーロッパやアジアの様々な国でプレイを経験し、2015年にDJ Koichi Satoさんとユニットを組んでからも、作曲活動や、独自レーベルにてのサウンドをリリース、また国内外の大きなイベントでもDJを務め人気を得ていました。

彼女のサウンドの特徴はヒプノティック。ディオールの香水のように甘く妖しく、それでいてリラックスを促してくれるような独特の響きを持っています。

彼女がclubhouseで公開するMixは、既存の音楽をつないでただ流しているというものとは全く異なります。あふれるセンスによってエフェクトやリズムが繊細に重ねられ、その場でしか聞くことができない貴重なアレンジが楽しめます。リスナーは、毎回、その「新曲」とも言えるサウンドに身を委ねながら、心地よく時を共有することができます。

私も彼女のサウンドのファンの一人。彼女のMixを聴いていると不思議と集中力が増し、絵を描くことに没頭できたり、構想のひらめきを感じたりしています。

また、その実力ゆえ、リスナーとして集まるのは日本人だけではありません。海外の人との繋がりも多く、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、国外の有力なclubhouse番組の主催者からも演奏を依頼されているんです。活躍の場がもはや世界規模。毎回国内外の多くのリスナーを楽しませています。

日本人アーティストで、そこまでの国際的な活動を行っているDJは、他ではあまり見かけません。私も毎回彼女をイメージしたイラストのアイコンで楽しく参加させていただいている一人です。

アートに精通した達人が毎日語るという美術“カタル”シス。アート好きの中にあった、共有したいという思いを昇華する。

変わって、clubhouseで盛んなアートシーンに関しても、私が好きな2名のclubhouserを紹介したいと思います。

毎日5分のアートニュース。テレビやラジオでは語られない、アートファンならでは、のチョイスにユーモアとセンスが隠されている。

会社員ながら美術を極め、美術検定は最高ランクの1級を取得済み。「美術の現場」に出かけるのが何よりも好きで、”アートプラクティショナー”として、日々アートの現場へ出かけてはフレッシュな情報を届けるべく、clubhouseのアート番組で先駆者的な活動をしているのがazmaxさんです。

アートだけでなく、趣味の幅が広すぎるazmaxさん。東京都現代美術館のボランティアガイドも務めています。

現在、azmaxさんがclubhouseで配信されている番組は2つあります。

1つは、平日の早朝6時50分から毎日5分間配信されるショートプログラム。その日のアート活動に対する彼なりのアプローチや、興味のきっかけになりそうな話を5分間にまとめて話しています。

clubhouseは、その特性上、一つの「ルーム」に入った複数人が雑談をしたりディスカッションをしたりという事が多い中、一人語りであるというのも特徴で、その優しい語り口と落ち着いた声の波は、落語を学ばれていたと聞かせていただいた時に大きく納得した点でもあります。

たった5分、いえ、5分だからこそ、一つのことを盛り上げるのには短く、ただ情報だけを読むのには長すぎる。彼が5分で表現する世界を、朝のお支度の間などに聞いてみてはいかがでしょうか?

azmaxさんが運営するもう一つの番組が、「平日美術館アートシーン」です。こちらは、月曜日から金曜日までの平日午後8時45分から9時30分までの約45分間で、彼が行った美術展やアート系イベントなどについてお話しされています。

その視点や切り口はやはり玄人ならでは。その感性をいつも勉強になるなと思いつつ聞かせていただいています。後半はリスナーが壇上に上がって対談形式で会話をしたり、情報交換をしたりする場所になっています。

その日の参加者にもよりますが、毎日多くの美術展、展覧会好きの方々が集まっているルームです。近日中にどこでどんな展示が見られるのか、自分だけでは辿り着けない情報も多く共有されます。また、実際に展覧会を観てきた、行ってきたという報告も多いので、これからどこに行こう、何を観ようと思っているアートファンにはとても有益な番組だと思います。

アートをもっと身近に。有名画廊所属の若手画家が願う、アートの垣根を下げるためのアプローチ。

clubhouseに参加したばかりの私が最初に入った大きなルームが、AKI OKUNOさんが主催する「あなたのお好きなアートを教えてください」というルームでした。

AKI OKUNO こと奥野 晶さんは、老舗の日動画廊に所属する現役の若手画家。小さい時から画家への情熱を持ち続けて夢を叶えました。

日動画廊所属の画家・奥野晶さん。clubhouseをしながら構想を練ったり、インプットとアウトプットのバランスを取ったりすることがあるそうです。

私は画廊に所属されて活動されている画家さんには、何だかとても遠いイメージを持っていましたし、画廊に足を運んだこともほとんどありませんでした。コロナ禍もあり、美術館にもなかなか出掛けられなくなっていた2021年の春、私たちを癒してくれるはずの音楽や絵からはどんどん遠ざかる一方だった気がします。

遠くなったリアルを少しずつ引き寄せてくれる、声による親近感

奥野さんのルームに入った私は、みなさんのお話を聞いているうちに、アートへの興味と情熱が揺り動かされ、私もお話ししたいと思ったのですが、最初はとても緊張していました。

でも、奥野さんの明るく屈託のない話し方と関西音節の馴染みやすさからか、温かい気持ちに包まれながらお話しさせていただいたのを覚えています。

彼女がclubhouseで番組を始めたきっかけは、一般の人がアートに対するイメージとして考えがちな「価値がわからない、高い」というイメージを少しでも払拭して、アートへの親近感を持ってほしいという思いからでした。

番組では、参加者がアイコンを自分の好きな絵画作品の写真に替え、人によっては恥ずかしがりながら最初はおずおずとその絵画やアーティストを紹介していきます。すると、奥野さんのトークによってその人の「好き」が徐々に立ち上がり、やがて熱量が他のリスナーに伝わることでその作品を「見てみたい」「ネットで検索して初めて見た」などのリアクションにつながっていきます。

こうして、自分の知らない人からの「推し」の作品を見て感動することによって、アートへの関心がより増していけばいい。芸術を見ることがどんどん身近になり、作品をそばに置くことがもっと簡単になっていけばいいと奥野さんは思われているようです。

美術館の中にあるものだけが芸術なのではありません。

現在、多くの作家さんが、様々な表現と技術を持って活動され、素晴らしい作品を生み出しています。ただ、残念なことに一般の人との接点は少なく、現実的にそこを繋いでいる線が画廊さんということになるのかなと思います。芸術は、鑑賞するものでもあるけれど、気に入った作品を自分のものにするというコレクションという楽しみもあります。

奥野さんの番組内には、アートコレクターも数多く訪れます。彼らの話を聞くうちに、絵って高いものばかりではないのだな、とか、たとえ買わなくても、絵を見に行くだけでも楽しそうかも、とか、お話しされている奥野さんの作品を直接見てみたいと思うようになった方も少なくないと思います。

奥野晶さんの絵画作品。カラフルでパワーある世界が美しい。

日動画廊では、毎年12月に銀座本店で「ミニヨン展」と呼ばれる、所属作家たちの作品のみを集めた展示が開催されます。奥野さんも現在、出品作を準備中。制作で多忙なときはclubhouseのルームをお休みされることもありますが、clubhouseにいる多くのファンは、彼女の新しい作品をきっと待っていると思います。これはまさにclubhouseが広げてくれたアートシーンの世界だと思っています。もちろん私もミニヨン展に伺うつもりです。

「聞く・話す」というだけでなく「行動に転換されていく」のが面白い。

ただ聴いている、人と話す、だけではなく、そこで動く事ができるのがclubhouseの特徴の一つでもあります。

聴いているうちに、話しているうちに、次は行動したい、という気持ちになっていくのが自分でも意外だったりします。それは単純に外に出るということではなく、音楽配信をしてみたいとか、楽器を演奏してみたいとか、映画をみておすすめしたいとか、本を読んで感想を話したいとか様々です。

それを、世界中の知らない人とできるのです。

プロフェッショナルな人たちの活動をリアルに体感しながら、素人同然の人でも挑戦できるようになったのは、clubhouseという世界がある程度“こなれて”きた、今だからではないかと感じています。

もしくは、私の場合、切り離された人との繋がりを取り戻すために、clubhouseでリハビリをしているようなものなのかもしれません。

ようやくCovid19の嵐から徐々に放たれつつある現在、美術館やライブなどの活動も少しずつ戻ってきています。とはいえ決して元通りではなく、新しい形を探りながら進んでいかなくてはならないとしたら、その一つとして今からでもclubhouseの沼へダイブして、いろんな扉を開けてみるのも面白いかもしれませんよ。

関連情報

ここからは、本文で紹介させて頂いた、私のお気に入りのclubhouse運営者をご紹介します。もし興味が湧いたら、clubhouseで番組を聴きにいったり、彼らのSNSやHPなどをチェックしてみてくださいね。

DJ Koichi Sato

Photo

Twitter:https://twitter.com/DJKOICHISATO
Instagram:https://www.instagram.com/koichisato/
Soundcloud:https://soundcloud.com/koichisato
Mix:https://soundcloud.com/koichisato/koichi-sato-live-daydream-ibiza-21-07-2018

DJ Mika Kitten

photo

Twitter:https://twitter.com/DJMikaKitten
Instagram:https://www.instagram.com/djmikakitten/
Facebook:https://www.facebook.com/djmikakitten
Soundcloud:https://soundcloud.com/dj_kitten
YouTube:https://www.youtube.com/user/djkittenmikanyan
Beatport:https://www.beatport.com/artist/mika-kitten/533167
Spotify:https://open.spotify.com/artist/0eMVFkJssoQbr2V6hb0vMh

azmax(あづまっくす)

photo

Twitter: https://twitter.com/Az_Takahiko
Instagram: https://www.instagram.com/azmax.eizeto/
Facebook:https://www.facebook.com/takahiko.azuma

Stand FM、Radiotalk等でも活動中

Aki Okuno(奥野晶)

作品photo

Instagram:https://www.instagram.com/sho.jp/
公式HP:https://akiokuno.com/

名古屋日動画廊(奥野晶さん所属)

日動画廊

公式HP:https://www.nichido-garo.co.jp/exhibition/02/
住所:名古屋市中区錦2-19-19
TEL:052-221-1311
FAX:052-221-1336
営業時間:平日10〜19時、土11〜18時
休廊:日曜・祝日

おすすめの記事