半沢直樹よりも凄い?システィーナ礼拝堂に残された『ミケランジェロの倍返し』とは?!

「やられたらやり返す、倍返しだ!」

かつて流行語にもなった、ドラマ『半沢直樹』のセリフ「倍返し」。
2020年版で、「1000倍返し」にパワーアップしたのも記憶に新しいでしょう。

主人公・半沢が、自らの信念を貫き、銀行内にはびこる不正や理不尽に対して、徹底抗戦し、倒していく様は、痛快そのものです。

しかし、それはフィクションの世界ならではのこと、とも思うでしょう。
彼のように「倍返し」を決めることができる人物は現実には・・・

いました。

ミケランジェロ・ブオナローティ、そう、ルネサンス三大巨匠の一人です。

その才能は「神のごとき」とうたわれ、彼自身、己の才能に強い自信を持っていました。が、それ故に人とぶつかり合うことも多く、教皇とも大喧嘩を繰り広げたことがあったほど。

そして、ついには自分の絵にケチをつけてきた人物に対して、とんでもない「仕返し」に出ます。

その内容、そして成否は如何に・・・

神のごとき天才による、「倍返し」の物語、ご覧ください。

①ミケランジェロと〈最後の審判〉

1535年、60歳のミケランジェロに、教皇から命令が下ります。

「システィーナ礼拝堂の壁面に、『最後の審判』を描くように」

「彫刻」を本分とし、誇りに思っていたミケランジェロにとっては、正直あまり喜ばしいものではなかったでしょうが、命令は命令です。

自分のもてる全てをもって、制作に着手します。
そして、約5年の歳月をかけて完成させたのが、こちらです。

ミケランジェロ・ブオナローティ「最後の審判」、1536~41年、システィーナ礼拝堂、ヴァティカン

縦約13.7m、横約12m、と巨大な画面。
その中には400人以上もの人物たちがひしめいています。

しかも、ミケランジェロは、彼らの多くを、裸体で描いていたのです!

ミケランジェロといえば、筋肉。

彼にとって、理想の美とはすなわち肉体美でした。

この作品でも、男性だけではなく、老人や女性までもが、ボディビルダー並みの筋骨隆々たる体格で表現されています。(女性に関しては、やり過ぎな気もしますが)

ミケランジェロ・ブオナローティ「最後の審判」(部分)
ミケランジェロ・ブオナローティ「最後の審判」(部分)

ここで、一つ思い出してください。

この絵が描かれたのは、祈りのための場だということを。
いくら、宗教画とはいえ、このようなボディビルダー並みの人物群像がひしめく絵を前にして、祈りに集中できるでしょうか?

制作の最中にも、周囲では、批判の声が上がります。
特にうるさかったのが、儀典長ビアージョ・ダ・チェゼーナです。

「この上なく下品」
「恥ずべき作品」
「公共浴場か酒場に飾るべき」

などと、散々にこき下ろします。

このように自分の美学(信念)を頭ごなしに否定され、ミケランジェロも黙ってはいません。

報復に出ます。

②「やられたら、やり返す!」ミケランジェロの倍返し

ミケランジェロの仕返しーーーそれは、憎きビアージョの姿を作品の中に描きこむことでした。
それも、地獄の裁判官の一人、ミノス王の姿で。

ミケランジェロ・ブオナローティ「最後の審判」(部分)

額や目尻の皺、分厚い下唇なども美化することなく、グロテスクなほどのリアルさで描き出しています。筋肉質な体には、悪魔の化身とされる蛇が巻き付き、急所に食らいついています。

そして、周囲には地獄の悪魔たち。

しかも、このミノス王の描かれている位置は、作品の下部、祭壇のある高さに当たります。
つまり、近くまで行けば、彼の姿は嫌でも目につくのです。

「なんだ、こりゃぁっ!!?」

ビアージョが仰天したのは言うまでもありません。
周囲には必死で笑いをこらえていた人も二、三人いたのではないでしょうか?

このままでは、作品の一部として、自分のこの恥ずかしい姿が半永久的に残ってしまう・・・

「何とかしてください!」

たまりかねたビアージョは教皇に泣きつきますが、

「いかに私でも、地獄のことは請け合えないよ」

と、流されてしまいました。

ビアージョは、泣き寝入りするしかありません。

③「倍返し」は、400年後までも・・・

ミケランジェロの手法は、現代なら「肖像権の侵害」として訴えられるものでしょう。が、彼にしてみれば、先に仕掛けてきたのはビアージョの方であり、自分は「やられたから、やり返した」と言うかもしれません。

彼は、自分の絵に対する侮辱に対し、絵筆でもって報いたのです。

1541年に完成した「最後の審判」は、ルネサンスを代表する名作の一つとして、世界中に知られています。

そして、完成から400年以上が経った現在、この名作の一部として、ビアージョの姿は、ヴァティカンに来る人々だけではなく、本やネットを通しても見られています。

そう、この記事を通しても。

もはや、ここまで来ると、「倍返し」ではなく、「1000倍返し」と言っても良いのではないでしょうか?

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