バンドマンからフラワーアーティストへ!花と真摯に向き合い、本質を追求する気鋭の作家・相壁琢人にインタビュー!

暮らしに彩りを与え、見る者の心を癒し、和ませてくれる花。

しかし、花は時に全く別の顔を見せることがあります。たとえば、花が持つ妖艶な一面をクローズアップさせ、花の生命の輝きや、人間と花の関わり方の本質を在り方を突き詰めたような作品で注目を浴びているのが、気鋭のフラワーアーティスト相壁琢人(あいかべたくと)さんです。

今回、青森県の津軽・弘前という土地を再発見する市民参加型の地方展覧会『Hirosaki Arts Pollination(ヒロサキ・アーツ・ポリネーション)』に向け、新作をリリースしたばかりの相壁さん。さっそくインタビューさせていただきました。

偶然の出来事から、花と向き合う覚悟が決まる

相壁さんの作品制作の様子

相壁琢人さんは、フラワーアーティストとしてフラワーアートや押し花などの自身の作品制作をはじめ、広告・会場の装花、紙面、MVなどのフラワーディレクションを中心に活動しています。

ご自身と花の関係性について伺ってみると、両親が生花仲卸を営んでいたことから、幼少期から身近な存在だったと教えてくれました。

さらに、どのような経緯があってフラワーアーティストの道を志したのか質問を投げかけてみると、昔はバンドマンとして音楽活動をする傍ら、親のもとで働きはじめたのだそう。

ダリアの作品

ある日、相壁さんはダリアが入った箱を落としてしまい、ダリアの花弁がバラバラに散った姿を見て、自分が殺めてしまったという感覚に陥り、そこで初めて「花も生命なんだ」と気づかされたと言います。

その出来事が大きな転機となって、花と真剣に向きあおうと決め、夜間で花の専門学校に通って資格取得。

そのタイミングでバンドが解散したこともあり、親元の生花仲卸を離れて都内の花屋で修行し、2015年から独立して作品制作をスタートさせたと教えてくれました。

「花の生命」を伝えたいー作品制作へのこだわりー

しかし、どうして枯れて朽ちていく花の姿に作品の焦点を当てているのか伺ってみると、可憐に咲いている花の姿の素晴らしさを念頭に置きながらも、その価値観だけに囚われるだけではいけないと感じたのだそうです。

花の価値観を広げてくれる人を待つのなら、自分自身の人生で伝えていこうと思い立ち、現在の「花の生命」を伝えていくスタイルが確立しました。

たとえば、花を生けていく作品では、咲いている花の隙間に朽ちた花を混ぜ合わせることで、美しさだけではない雰囲気を作り出していくことを大切にしていると教えてくれました。

また、押し花を用いた作品では消えゆく品種を残したいという思いから、敢えて半乾きで発表することで満開後に枯れていく姿を表現し、花の価値観を壊すことなく広げていきたいと思っていると語ってくれました。

続けて、相壁さんに作品制作時に大切にしていることを伺ってみると、作品のテーマによって大切にすべきことは変化しますが、一貫して絶対に目の前の花の生命から目を逸らさないことなのだそうです。

先述の作品表現以外にも、花を炎で燃やしたり、水中でインクを垂らしたり、敢えて肉や果実に生けたり…。

受け取り方によっては、鑑賞者から「花がかわいそう」などと思われてしまうかもしれません。しかし、覚悟を持って目の前に生けた花の生命を見つめ、その表現さえも大切にしていないと、結果として作品が花も、表現も、殺してしまいかねないと思っていると教えてくれました。

Slack上でのコミュニティ「EDEN」で得られた新たな気づき

コロナ禍で新しい生活様式が求められるようになり、リモートワークなど在宅時間が増えたことから、自宅での暮らしを豊かにしようとする人が増えました。そのなかで相壁さんも、日々の暮らしに彩りを添え、人の心を和ませ癒してくれる、という花の側面に改めて気付くことができたそうです。

そこで、相壁さんは、花を長く楽しむ方法や、花にまつわる知識を共有するためのコミュニティ『EDEN(エデン)』をSlack上で立ち上げました。ここでは、相壁さんがメンバーと交流しながら、毎月彼の厳選した季節の花やアートワークがメンバーの日々の生活に届けられます。

『EDEN(エデン)』という名称は、新たな場所を共につくっていく、という意味で名付けられました。コロナで私たちの生活が大きく変わってしまったことを踏まえ、もう一度花に対する価値観を見つめ直したうえで活動をしなければ…という思いも込められているそうです。

『EDEN』は、メンバーとともに場所を作っていくコンセプトで運営されているので、コミュニケーションは双方向。時にメンバーの方から「このように発送したらいいのではないか?」と親切なアドバイスをいただいたり、「住んでいる地域が北国なので届いた南国の品種の花が枯れやすい…どのようにしたらいいのか?」と地域性の違いに根ざした質問が寄せられたり。

表現者としてのみ活動していた時には知りえなかった、利用者の気持ちを感じ取ることができましたと教えてくれました。

2021年の新作「Noah's Ark」が『Hirosaki Arts Pollination』に登場

相壁さんは、青森県の津軽・弘前という土地を再発見するための、市民参加型の地方展覧会『Hirosaki Arts Pollination(ヒロサキ・アーツ・ポリネーション)』に出展されました。

Hirosaki Arts Pollination特設サイト
https://artspollination.com/

本展は、りんごが結実する仕組みになぞらえ、アーティストや鑑賞者の存在を植物の花粉を運び受粉させる「ポリネーター(送粉者)」と解釈。さまざまなジャンルで活動する14組のアーティストたちの眼差しと、津軽の歴史、文化、産業、風土を掛け合わせて複眼的に捉え、新たな気づきや明日につながるエネルギーを心に実らせることをミッションとしています。

相壁さんは、かつて東急東横線で使われ、約30年経過した今でもメンテナンスを重ねて弘南鉄道大鰐線で現役として稼働中の鉄道車両から、1車両分を展示スペースとして使った新作『Noah’s Ark』を発表。

本作品は、車両内に約2000本もの花々の花弁が敷きつめられています。来場者が乗車し、花弁の上を歩いて踏みしめることで、最終的に「押し花」として完成する体験型インスタレーション作品なのだそう。

作品展示に使われた鉄道車両は、ノアの箱舟にたとえられています。花(=種)の保存という意味を含ませ、実際に運行することで、モノトーンになってしまった過去から未来に向かって色彩に溢れた『EDEN(楽園)』を描いていこうという想いを込めたと教えてくれました。

2021年以降、新たな挑戦が目白押し!相壁琢人さんの今後に注目

最後に、今後の活動や展望を教えていただきました。

一昨年(2019年)の発表作品『Adam et Eve』で活動5年目の節目を迎えたことや、2020年のコロナ禍で花に対する価値観について様々な気づきがあったことを踏まえ、2021年以降の次の5年間では、これまでの作風からまた違った、花の穏やかな側面を表現した作品にも挑戦しようと考えているそうです。

また、サブスクを通して各地の環境によって花の需要と供給が違うことを実感。人々の思いをしっかり肌感覚で理解してからのほうが、もっと深く花を伝えるための効果的なアプローチがとれると考えるようになりました。

来季の目標は、全国47都道府県を巡ること。その後は、ワークショップや展示ができる店舗を持ち、2025年のタイミングで大きなプロジェクトを発表できたらと語ってくれました。今後の相壁琢人さんの活動から目が離せませんね!

相壁琢人さんのプロフィール

相壁琢人(Aikabe Takuto)

2015年からフラワーアーティストとして制作活動、またフラワーディレクションを開始。これまで押し花制作・フラワーアート・フラワーディレクション・広告/会場装花・ワークショップ・コラム執筆などその活動は多岐にわたります。近年では、アーティストのストリーミングライブやCM装花など、フラワーディレクションの幅を広げています。

公式HP:http://ahi-aikabe.com/
twitter:https://twitter.com/ahi_takuto
Instagram:https://www.instagram.com/aikabetakuto/

花屋『EDEN』-厳選した季節の花が届くサブスクリプション-
https://community.camp-fire.jp/projects/view/434578

イベント情報

『Hirosaki Arts Pollination(ヒロサキ・アーツ・ポリネーション)』

会期:2021年11月27日(土)~12月5日(日)
会場:弘前市のエリア内
   ※詳しくはホームページをご覧ください。
時間:10:00-17:00
公式HP:https://artspollination.com/

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