
2023年、再び訪れたニューヨークではさらに多くのチャレンジが待ち受けていました。このコラムは、そんな中でヘンテコな私が、半歩ずつ自己実現をめざし孤軍奮闘してきた経験を綴ったものです。観光旅行では味わえないニューヨークの一面を知ることが出来ました。それをご紹介していきます。
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ニューヨークの移動手段
ここはどこ?とつい知りたくなるファンシーな内装ですね。な、なっ、なんとこれは、ニューヨークの地下鉄の車内なんです。お久しぶりに連載再開させていただきました「Mayumio」です。突然、家族に緊急事態が発生し、それに集中せざるを得ない状況となり、無念の休載に。申し訳ありませんでした。そして、このNew York State of mindのシリーズも、あと2回となってしまいました。それで、今回はプレエンディングにふさわしいテーマを熟考してみました。東京で暮らしていると「おひとり様」というキャッチがあるほど今では、女性または男性の一人行動が増えました。それを支えているのは、「足」があることが一つにはあります。まずは、そのニューヨークの足の代表、公共交通機関の雄、地下鉄をご紹介していきます。
ニューヨークの地下鉄
1970年代、80年代、90年代初頭、ニューヨークの地下鉄は、「危険、暗い、汚い」と3Kで酷評されておりました。その影響で日本人観光客の中には、今でも「地下鉄だけは乗らない」を行動指針にしている方がいます。そう思っていませんでしたか?
まだ、ほんの30年ほど前ですが、年表によると、1992年ニューヨーク市では2000件超の殺人事件と62万件超の重罪事件が起こっていました。特に麻薬取引やギャングの抗争が日常茶飯事となっていた地区では、日が暮れると誰も外を歩かず、ゴーストタウンのようになっていた頃、地下鉄は特にひどく無秩序としか言いようのない状況に陥っていました。ところが、その地下鉄、1990年代の初めと終わりでは重罪事件の発生は75%も減っているのです。
劇的に変わっていたのです。何が起こったのでしょうか?
SF映画のように近未来予知機能を使って、犯罪者・犯罪者予備軍が厳重に取り締まられたのでしょうか?いえ、いえ、そんなはずはなく皆な前と同じようにニューヨーク市に暮らしています。では、なぜ?
答えは、「地下鉄をきれいにした」です。
地下鉄公団総裁のデイヴィッド・ガンは犯罪が多発する地下鉄の再建計画を監督、まず地下鉄の落書き清掃作戦を始めたのでした。当時の人たちからは「もっと大きな犯罪問題に対処すべきだ。地下鉄自体が崩壊寸前になっている時に落書きを消すなんて的外れだ」と批判されました。しかしデイビッド達は、こつこつと路線ごと車両ごとに計画を立てて徹底的に清掃し続けました。落書き清掃作戦は1984年から90年まで続けられました。
次に、1990年から地下鉄警察の指揮官ウィリアム・ブラットンは地下鉄内で頻繁に起こる重罪事件への対処を始めました。この対処も重罪事件が頻発している時に的外れだと批判されました。しかし、直線的な因果律では理解しにくいのですが、1990年から94年にかけて、この対処法実施に伴い、重罪事件も減っていったのです。さて、ウィリアム・ブラットン達はどんなことをしたのでしょう?

答えは、「無賃乗車の撲滅に取り組んだ」です。
ウィリアム・ブラットン達は、それまでは見逃されていた無賃乗車等の軽犯罪を徹底して取り締まっていきました。それで、逮捕された軽犯罪者の数は、1990年から94年にかけて、5倍に跳ね上がり、それにつれて、重罪事件も減っていったのです。
その実績で、1994年にルドルフ・ジュリアーニがニューヨーク市長に当選するとブラットンはニューヨーク市警の長官に任命され同じ戦略をニューヨーク市中全域に展開しました。
もちろん、市中犯罪は激減し、それを成し得た市長としてルドルフ・ジュリアーニの名が歴史に刻まれることになりました。直近のコロナ禍におけるアジアンヘイトにより少し逆戻りしたものの、このドラマチックな成功を支えた理論をご存知ですか?

答えは、「割れた窓理論」です。
犯罪学者のジョージ・ケリングが発案しジェームズ・ウィルソンと共に学説化しました。ブロークン・ウィンドウ理論という名でも知られています。それは、割れたまま修理されていない窓のそばを通りかかった人の多くは「ここでは、何かあっても気にされないんだろうな」と思い始め、そのうち、ほかの窓も故意か自然かで割れると、無法状態の雰囲気がたちまち地域に拡がり、ここでは無法が許されるという象徴になっていくというものです。例えば落書きや無賃乗車など比較的些細な問題のすべてが割れた窓と等しくより深刻な犯罪の呼び水になるという環境形成について述べたのが「割れた窓理論」です。だから、呼び水になるようなものをまずは、取り締まろうという戦略を当時の責任者たちは立案、実施してみたのです。直線的ではなく、循環的な因果律に近いのですが、小さな力で大きな問題の解決に繋がる可能性に賭けてみたわけです。このフレーズ、「初めの半歩」をモットーにする本(rakukatsu)サイトの行動指針と同じですね。

一目見ると、大きな問題を回避してどうでもよい様なことに注力しているように見えるので、常識的な解決策に反しているように見えてしまいます。その上にこの理論は社会学の中でも色々な意味で批判されてもいます。しかし、崖っぷちに立たされていると言ってもいいぐらいの最悪の事態に地下鉄公団という大きな組織がきちんと継続的にこの理論に沿った計画を実施していったことに驚嘆しました。そして、結果をだしているのです。もちろん、この「割れた窓理論」戦略が重罪事件を減少させる立役者だったかどうかは、先ほど申し上げたように学会でも批判があり完全に断定することはできません。大きな意味があるのは、それを信じて、長期にわたり継続して実践してみたというところです。
歴史のご紹介が長くなりましたが、この時期から地下鉄は以前ほど危険で暗くて汚い乗り物でなくなりました。とは言え、日本の地下鉄に比べれば、ひどいと思われる方が多いのも頷けますが、私はこの移動手段に大変助けられました。

料金はわかりやすく距離にかかわらず均一で、モバイル決済なら一回2.9ドル。それも私はシニア割が利くのでなんと半額でした。他にもユニークなのは、週に34ドル以上の料金がかかることがない、つまり週に12回乗るとそれ以降その週は乗り放題になるんです。
もうひとつユニークなのは日本では未就学児童は大人と一緒なら二人まではタダですね。それと同じようなシステムがあるのですがニューヨークの地下鉄では大人一人に対して背の高さが44インチ以下の子なら3人まで無料です。背の高さで決めてるんですね。背の高さで決めるというのはアメリカの文化なのでしょうか。このときばかりは背が低い方がお得ですね。犬や自転車も気軽に乗っています。


肝心の路線ですが、網の目のように敷かれておりバスとともに使えばニューヨークのどこへでもアクセスできます。24時間運行しており終電がありません。(24時間運行というのが犯罪率にも関係していると思います。)
それに夜の地下鉄は昼とは違う路線を走り、平日と休日も異なります。地下鉄を運営する(MTA)のホームページに詳細が記載されています。知ってるつもりで夜乗って路線が変わっていて行きたいところへ行けないとなったら、ちょっと怖いです。
それ以上に夜遅くの利用は安全上からもやめた方が良いと言われています。大幅に改善したとはいえ東京に比べればその犯罪率は比較にならないほどまだ高いのは事実です。2024年にはまた地下鉄での犯罪が若干増えたという情報もあります。ニューヨークに行かれる方は外務省や在ニューヨーク日本国総領事館などから治安に関する最新情報を入手しましょう。そして、明るくなった地下鉄を楽しむ際にも十分ご注意されることをお勧めします。
ニューヨークのuber
婿殿からは遅くなった時にはUberを使うように言われていました。
日本では、ニューヨークにあるようなuberシステムはあまり普及しませんでした。2025年現在、日本のUberはタクシーとほぼ同じですが、ニューヨークでは、タクシーのようなプロの営業者・車ではなく隙間時間に稼ぎたい一般人が自家用車を運転して来ます。uberのサイトに事前登録をし、スマホで行先を入れると、料金がわかり、GPSで向こうがこちらのスマホの場所近くまで来てくれます。支払いは降車後自動的にクレジットカードから引き落とされるので運転手とのやり取りは必要ありません。まるでロボットに運転をお願いしているようなものですが、必要はないと言ってもおしゃべりな運転手さんはたくさんいらっしゃいます。車さえあれば移民してすぐにでも始められる仕事の一つのようです。
先日はベトナムから来たばかりの運転手さんと話していて英語のレベルが合っていたのかとても楽しかったので降りるのが嫌になってしまいました。「やっぱり、uberいいね」と娘に言うと、娘は、同じくベトナムからの人ながら「ニューヨークの交通ルールを知らない運転手に当たってしまって死ぬ程怖い経験をした」と言ってきました。それには、びっくりでした。私は運転はしますが東京や大阪のような混雑している場所で運転したくありませんし交通ルールがよくわかっていないような国で運転するのは怖さを感じてしまいます。それなので、一昨日来てすぐにuberドライバーになったという話にいたく感動してしまいました。やる気になったら何でもできるんですね。移民のバイタリティーは、すごい。お客さんが多少怖い思いはしますが、当然そういうことはスマホからクレームを発信できるわけです。けど、娘はそれをしなかったそうです。なぜならば、移民として来たばかりの人が仕事を取り上げられたら「それはそれで、かわいそうだ」と思ったと言っていました。私には怖い鬼娘ですが、運転手さんには優しい乗客だったようで、良い悪いはともかく、ホッコリしてしまいました。

ニューヨークのマイカー
最後にマイカーのご紹介です。
こんなに公共交通機関が発達しているのに、うちの婿殿も車を持っています。男の人は、マイカーを持ちたがるのでしょうか。婿殿も愛車に「るみちゃん」という名前を付けて可愛がっています。マイカーと言えば、駐車問題に直面するのは日本と同じですが、ここニューヨークは困り方がユニークなんです。世界一地価が高いニューヨークです。車庫を持つのは珍しく、車庫のある家を指して、ご近所の人が「あそこんち車庫があるのよ。信じられない。なんて、もったいない土地の使い方してるのよ」と井戸端会議をするぐらいなんです。それでは、多くの人がマイカーの駐車をどうしていると思いますか?
答えは、「路駐オッケーなの」です。
そこだけ聞けば「とってもいいわね」と思われるかもしれませんが、当然、良いこともあれば悪いこともあるのが世の常。週に1回か2回道路のクリーニングタイムがあって、その時そこに駐車していると200ドルぐらいの罰金が科されてしまいます。だから、みんなその時間は一斉に車を移動させねばならず、仕事を中断して、街をウロウロせざるを得ないという、どういうコンセプトなのかわからないルールがあるのです(たぶん、最初はみんなが納得するような合理的なコンセプトがあったはずですが、今となっては誰も覚えていないだけかもしれません)。


このように地下鉄に、バス、Uber、マイカーとニューヨークシティは移動が便利です。制限なく自由に移動できますから、おひとり様でもニューヨークに冒険の旅にいらしてはどうでしょうか。でも、油断することなく安全にはくれぐれも気を付けて。
次回はとうとう最終回です。最終回は世界一地価が高いニューヨークで家を手に入れた友人のユニークな体験談をご紹介しつつ、それこそが、ニューヨークだという歴史に触れていきます。その感触をご一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。