シネマ・演劇

地元密着型の老舗映画館!横浜『シネマ・ジャック&ベティ』の魅力に迫る!

『シネマ・ジャック&ベティ』は、横浜・若葉町にあるミニシアター。映画ファンはもちろんのこと、地域に根づき、地元民から愛されている劇場です。「SCREENジャック」と「SCREENベティ」の2つのスクリーンを備え、単館系の新作ロードショーを中心に、監督・俳優特集上映や、映画祭なども行っています。

その歴史は古く…戦後、米軍の飛行場として使用された跡地にオープンした「横浜名画座」がはじまりでした。そこから経営母体や劇場名、コンセプトを変更しながら、紆余曲折を経て現在に至るまで劇場運営がつづけられてきました。

そこで、長きに渡って映画館の運営に携わっている、劇場支配人の梶原俊幸さんにお話を伺うことができました。梶原さんのコメントを紹介しながら、『シネマ・ジャック&ベティ』を紹介していきたいと思います。

戦後から約70年続く劇場を引き継いでいる『シネマ・ジャック&ベティ』

劇場の様子(左:SCREENジャック、右:SCREENベティ)

1952年12月25日、アメリカ軍の飛行場として使用されていた場所にオープンした『横浜名画座』。

かつて隣接して営業していた『横浜日劇』とともに、「洋画は日劇、邦画は名画座」のフレーズのもと、地元密着型の映画館として長らく親しまれていました。

その後、1991年に老朽化した建物を建て直し、館名を『シネマ・ジャック&ベティ』に変更して再スタート。その際、スクリーンも、それまでの1スクリーンから2スクリーンに分割されました。

青色の座席で内装のデザインが角張っているSCREENジャックでは男性に人気なチャンバラや西部劇を、赤色の座席で内装が曲線を帯びたSCREENベティでは女性が好きなラブストーリーやロマンスを上映。恋人や夫婦で訪れても、それぞれ我慢せず好きな映画作品を鑑賞し、鑑賞後は再び落ち合って街デートを楽しめるように工夫がされていたそうです。

支配人の梶原俊幸さんは、「『ジャック&ベティ』という館名は、当時英語の授業で使用されていた、誰でも知っている教科書のタイトルから名付けられた」と語ってくれました。

町づくりから劇場と地域を盛り上げる

劇場入口

しかし、そんな多くの人に愛され続けてきた歴史ある映画館にも、運営の危機が訪れました。

1991年、リニューアルするも興行不振などの理由により経営会社が解体。2005年2月、一旦閉館の憂き目に遭うも地元の映画ファンの後押しもあり、運営会社が替わって営業を再開。

梶原さんが同館の運営にはじめてかかわったのは、2006年。映画館を応援するボランティアとしてでした。横浜市が主導する黄金町エリアの文化・芸術を中心とした町づくりに何か貢献できればという思いから参加を決めました。

黄金町といえば、かつては少し危ないイメージもあったエリア。そんな黄金町のイメージを変えていこうという取り組みのなかで、横浜市と連携しながら、横浜の歴史とともに歩んできた劇場で、横浜を舞台に描かれた作品を制作するなど、町の記憶を残し、町を応援していきたいという想いを抱いていたそうです。

その想いから自分たちで何かできることはないかと、劇場のロビーでカフェを開いてお客さんと対話したり、町歩きの様子をブログで紹介したり、またそのブログ記事を読んでくれた人とオフ会をしたりなど、劇場とともに地域を盛り上げる草の根的な活動に熱心に取り組んでいきました。

その後、当時の運営会社から、劇場を含めた町づくりを継続してくれるのなら運営をおまかせしたい、という話があり、2007年3月から運営は株式会社エデュイットジャパンに引き継がれます。そのタイミングで、梶原さんが新たに劇場支配人に就任。以来、現在に至るまで15年以上、同社による劇場運営が続けられています。

ミニシアターだからこそできる取り組みを

交流会の様子

町づくりから黄金町に関わってきた梶原さんたちは、劇場をにぎやかにすることで、地域の活性化につなげるというコンセプトを立て、劇場を盛り上げるためのさまざまな施策を講じてきました。

たとえば、大型映画館との差別化の推進です。大型映画館は、チェーン化されたショップやレストランが入居するショッピングモール内に入居しています。これに対し、ジャック&ベティでは、黄金町にしかないものを取り扱う個人店や、黄金町でしか食べられないメニューがある飲食店を紹介するなど、地元色を全面的に押し出していきます。

また、映画の半券を持参すると割引サービスを行ってくれる地元の店舗を募集して、提携店舗を記したローカルマップを作成しました。こうした町めぐりを楽しむための仕掛けを多数考案するとともに、地元の祭りにも積極的に参加して、地域コミュニティとの関係強化を図っていきました。

さらに、今でこそ当たり前の風景となりましたが、15年前まではとても珍しかった「舞台挨拶」を他館に先駆けてスタート。あわせて、トークショー、サイン会、交流会といった、映画関係者と来場者をつなぐ取り組みもつぎつぎと企画していきました。

こうした一連の施策は、より近い距離で来場者から映画作品の感想を聞ける……と監督や俳優から非常に好評でした。来場者からも、劇場のサービス改善につながるアドバイスが直接もらえたりと、人と人とのコミュニケーションから、劇場運営や作品選定のための貴重な学びを蓄積していったのです。

コロナ禍への対応で、工夫を重ねた新たな取り組み

オンラインイベントの様子

ご存知の通り、文化芸術に関わる施設では、コロナの影響によってさまざまな活動上の制限が課されてきました。そこで、今回のコロナ禍の中で『シネマ・ジャック&ベティ』が、どのような運営を行ってきたのか伺ってみることにしました。

やはり同館でも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の恐れから、2020年の4~5月は劇場を休館せざるを得なかったのだそうです。しかし、人と人との顔が見えるコミュニケーションを大切にしていきたいという思いから、Webアプリ「zoom」を活用してオンラインでの交流会を継続してきました。

2021年秋以降、各劇場では営業制限が緩和されつつあります。同館でも、現在は入場人数を絞り込んで上映を再開中。交流会は10名限定でオフラインでの開催を再開しました。それと同時に、希望者はオンラインでも参加可能にして、オフライン/オンラインを組み合わせたハイブリッド開催になっています。これにより、遠方のファンや地方の劇場の関係者などもオンラインで参加してくれるようになるという、思いがけない収穫もあったそうです。

また、ネット購入での指定席制を一気に導入できたのもコロナによる副産物でした。最近は座席指定を望む声が上がっていたものの、コロナ前は他劇場でも一般的だった、整理番号による自由席制をとっていました。

ジャンルにこだわらないことがこだわり(笑)

劇場ロビー

劇場の作品選定について伺ってみると、「こだわらないことが“こだわり”」だと、ニッコリ笑いながら答えてくれました。

昭和30~40年頃、横浜界隈では30館近く劇場が存在し、映画館をハシゴしながら映画を楽しむのが普通だったのだそうです。映画好きの人々は、大型劇場での上映作品だけでは満足できず、いろんな映画を探していました。そのことを知った梶原さんは、熱心な映画ファンからのリクエストに応えるべく、さまざまな作品を上映することに決めたと教えてくれました。

運営当初は、アクションやホラーを上映するのは、年配の客層が多いジャック&ベティでは好まれないのでは……と不安を抱えていたのだそうです。しかし、いろんなジャンルの映画が好きな方々から、「他ではやらないからやってくれて嬉しい」という声をいただけたことをきっかけに、運営サイドからジャンルを絞り込んでしまうのはやめて、国籍やジャンルを問わず様々な作品を上映するようになりました。

とはいえ、来場者が劇場に入ってくれなければ経営に響いてくるはず。では、一体どのようにして上映作品の選定を行っているのでしょうか。

その一つの選定基準が、劇場の常連客の顔をひとりひとり思い浮かべながら、彼らが喜んでくれるかどうかを想像することなのだそうです。まさに、来場者と距離感が近いミニシアターならではの利点ですね。また、上映直後の来場者のリアクションも参考にしています、と語ってくれました。

30周年企画映画『誰かの花』について

今回、劇場と映画制作会社GACHINKO Filmとのコラボレーションによって実現した30周企画映画『誰かの花』。事の始まりはGACHINKO Filmからの提案でした。そこから、劇場が協力するようなかたちで関わっていきました。

梶原さんは、最初に本作の脚本に目を通した際、劇場の30周年記念とは全く関係のないストーリーであったこと、横浜を舞台にしつつも、必要以上にローカル色を推していなかったことを好感。30周年を盛り上げるための賑やかしではなく、30周年を過ぎた後も人々の記憶に残る作品になると思ったそうです。

映画はまもなく封切りです。梶原さんは、ジャック&ベティ劇場が無事に30周年を迎えることができたお祝いとして、奥田祐介監督をはじめ、作品制作に協力してくれたメンバーたちとともに喜びを噛み締めながら、先行上映となる12月18日を迎えたいと語ってくれました。

【劇場情報】

横浜シネマ・ジャック&ベティ
住所:〒231-0056 神奈川県横浜市中区若葉町3丁目51
時間:9:00~23:00 ※上映作品により変動
電話:045-243-9800
公式WEBサイト:https://www.jackandbetty.net/

【作品情報】

誰かの花
2021年12月18日(土)~24日(金)
横浜シネマ・ジャック&ベティにて先行上映
2022年1月29日(土)~
ユーロスペース、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国公開
監督:奥田裕介
出演:カトウシンスケ、吉行和子、高橋長英
製作:横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
宣伝・配給:GACHINKO Film
公式WEBサイト:http://g-film.net/somebody/

新 麻記子

新 麻記子

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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。

日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に…#日本酒がある暮らしをコンセプトにしたメディア&コミュニティ『酒小町』の編集長をつとめるほか、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。

Instagram:@shin_makiko

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