現在、東京国立近代美術館にて開催中の「あやしい絵展」。
会場では、妖艶、奇怪、退廃的、ミステリアスなど、単純な「美しさ」とはひと味違う、後ろ暗いような不思議な魅力がある作品を集めた「あやしい絵」が展示されています。そのユニークなテーマ性や、多くの作品が写真撮影OKとなっていることから、会期初旬から異例の大人気となっていますね。
そこで、本記事では、本展をより深く楽しんでもらえるように、「あやしい絵」展で取り上げられた主要テーマを取り扱った5つの映画作品をご紹介。作品に描かれた人物やテーマを紐解きながら、映画の見どころもご紹介します。
絵だけでなく映像で各テーマを掘り下げることで、各作品で取り上げられたそれぞれのテーマについてより深く理解できるようになるでしょう。
それでは、早速見ていくことに致しましょう。
愛情は憎しみと紙一重!安珍・清姫伝説

会場では、天台宗の古刹・道成寺(どうじょうじ)を舞台とした安珍・清姫伝説(あんちんきよひめでんせつ)をテーマに、作家各人各様の場面解釈と表現様式で描かれた、バラエティ豊かな7作品が展示されています。
紀州の道成寺縁起として知られる安珍と清姫をめぐるストーリーは、平安時代の仏教説話集『大日本国法蓮経験記』に原話が確認されるなど、はるか昔から現代まで1000年以上もの間楽しまれてきた定番の愛憎劇。時代を下るにつれて少しずつアレンジを加えながら、絵巻や絵本にとどまらず、能、浄瑠璃、歌舞伎などの様々な伝統芸能でも人気演目として広まりました。
もちろん、ちゃんと映画も制作されました。
おすすめ映画「安珍と清姫」(1960)

安珍と清姫伝説をベースにした大人の日本昔話。紀州道成寺への参籠に出かけた修行僧安珍が、真砂の里で勝気な清姫に出会ったことから、その激しい愛情に大きく運命を狂わされる悲恋物語。
物語では、自らの気持ちを自覚しつつも立場やプライドによって葛藤や煩悩に苦しめられる両者の姿が丁寧に描かれます。相手とのコミュニケーションや、自分の心に素直になることの大切さを感じました。
人魚、それは異世界からの妖しく美しい来訪者

会場では、谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』の扉絵や挿絵のほか、鏑木清方「妖魚」といった、人魚を題材にした作品がご覧になれます。
数々の神話やおとぎ話でモチーフとされている人魚伝説。国内最古の記録は619年とされており、『日本書紀』に記述されています。
おすすめ映画「ゆれる人魚」(2018)
ポーランドの新鋭女性監督による、人喰い人魚が人間に恋をした、ダークでロマンチックで、ちょっぴり大人向けの現代版人魚姫『ゆれる人魚』。
ジャンルとしてはホラーですが、ファンタジーやコメディ要素も入り交じる作品です。また、人魚の姉妹が歌うシーンはミュージカルでもあり、既存の枠に捉われない斬新な作品に仕上がっています。
日本史上屈指の悪女?!豊臣秀吉の側室「淀君」を描いた傑作

本展の美人画コーナーに展示されている、ひときわ目立つ異様な老婆の立ち姿を描いた肖像画が、北野恒富「淀君」です。戦禍の暗闇から浮かびあがる、口を一文字に結び先を見据えた表情…その顔には豊臣家を守ろうとした強い意志と、遠くを見据えた目には絶望が滲み、独特の美を見てとれることでしょう。
おすすめ映画「茶々-天涯の貴妃(おんな)」(2007)

https://eiga.com/movie/34207/video/
井上靖の歴史小説『淀どの日記』を原作に、激動の戦国時代を駆け抜けた女性・浅井茶々の数奇な運命を描いた時代劇です。
織田信長の姪として生まれ、豊臣秀吉の側室となり、徳川家康と天下を賭けて戦い、のちに淀君と呼ばれた女“茶々”を、元宝塚歌劇団宙組の男役トップスター和央ようかが演じました。
茶々の知られざる生涯と血脈の戦いを絢爛豪華に描く歴史大作をご覧になってみてはいかがでしょうか。
ゾクリとする不敵な笑みを浮かべる花魁

会場では、メインビジュアルにも選ばれている甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)「横櫛」、不敵な笑みを浮かべる稲垣仲静(いながきちゅうせい)「太夫」など、花魁が描かれた作品が数点展示されていました。
そのどれもが美しくありながらも、客人をもてなすための笑顔が浮かべられ、少し怖さが際立っていました。
おすすめ映画「花魁道中」(2014)
原作は、宮木あや子による同名小説です。第5回『女による女のためのR-18文学賞』大賞・読者賞をW受賞し、新潮社より連作短編として書籍化されるや、単行本・文庫合わせて約12万部を売り上げたベストセラーが映画化されました。
美しく、艶めかしく、儚い運命に咲き誇った吉原遊女の物語が綴られ、安達祐実がヒロインとなる花魁を熱演したことで話題を呼びました。
気怠そうな雰囲気を醸し出すモダンガール

高畠華宵(たかはたかしょう)が描いた『少女画報』や『少女の国』に描かれている、モダンな洋装や淑やかな和装に身を包んだ少女たち。
作品には慎ましやかな良妻賢母の姿はなく、最先端を行くモダンガールが描かれています。その伏し目がちな顔つきからは、妖艶さが滲み出ています。
おすすめ映画「夢二 愛のとばしり」(2016)
「大正ロマン」と言われ、クラシカルでお洒落なイメージが輝きを放ち続けている大正時代。
本作品は、“日本最初のポップアート”アーティストとして明治、大正、昭和の時代を駆け抜け、今なお根強い人気を誇る竹久夢二の人生を描いたドラマです。
美人画のモデルとなった妻・たまきとの憎愛、決別、崩壊。そして、夢二が最も愛した女・彦乃との逃避行と死。哀しくも愛のある夢二姿を捉え、大正時代を席巻した人気画家の人物像の本質に迫っていきます。
作品の内容はドロドロとしていますが、装飾や服装から大正当時の空気感が感じられ、心がときめきます。
名画鑑賞と相性抜群!作品の背景をより深く知るには映画がオススメ!

会場では、一度観たら忘れられないほど、美しくもあやしい名画を展示しています。
数々の展示作品と映画作品を関連づけることで、そこに描かれている人物の表情や背景から、その時々の社会や文化の諸相を読み取ることができるでしょう。
ぜひ、ただ作品から不思議な魅力がある「あやしい」だけじゃなく、その向こう側にあるものも一緒に楽しんでみてくださいね。
展覧会基本情報「あやしい絵展」

会期:2021年3月23日〜5月16日
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
金曜・土曜及び4月25日以降の祝日、日曜日は20時まで
休館日:月(ただし3月29日、5月3日は開館)、5月6日
料金:一般 1800円 / 大学生 1200円 / 高校生 800円
大変混み合っているので日時指定予約を推奨します。
公式HP:https://ayashiie2021.jp